トリトメル

日常生活維持ごっこ

2022年10月 よく聴いた曲

BOaT「ネガティブコンディション」

BOaTの後期作品がサブスク解禁され、ツイッターのTLでにわかにBOaTの話題が活発になった事でこのバンドにまんまとハマってしまった。初期のかわいくてキャッチーな作風からラストアルバム『RORO』の壮大で実験的な作風までの変遷が、わずかアルバム4枚の間に見てとれる面白いバンドだった。出している音がことごとく自分好みで、特にギターの音は轟音で聴くとすごく気持ちいい。女2男1のトリプルボーカルが曲によって入れ替わるのも楽しい。

中でも特に気に入ったのが1stアルバム『フルーツ☆リー』(ふざけたタイトルだなあ)で、9月末から10月頭にかけては誇張抜きで毎日聴いていた。1枚のアルバムにここまで執着して聴くことは自分としても珍しかったが、とにかくどんな時でも何回でも聴きたくなる作品だった。

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アルバムちょうど真ん中のこの曲は、ボーカル3人(もしくはメンバー5人全員?)の合唱+アコギ+手拍子という、これ以上無いほどシンプルな編成で、ある種インタールード的な短い楽曲だが、実はこの曲が一番好きな曲の一つかもしれない。まずこのシンプルな編成でさえも、複数人の声とギターと手拍子と雑音がすべて耳に心地よく、それでいてまとまった音楽として各パートが有機的に相乗効果を生んでいるところがスゴいと思う。「いつかモノクロームの夜が明けるように/はるかキミの歩く空が晴れるように」という歌詞も優しくて元気な気持ちになれた。「ネガティブコンディション」というタイトルもキャッチーで好感を持った。

 

BOaT「Thank You & Good-Bye」

やはりBOaTの『フルーツ☆リー』からもう1曲。

実はBOaT及びフロントマンのAxSxE氏のことは、自分がもともと好きなモノのいくつかと関わりがあって、既に名前くらいは聞いたことがあった。例えば、神聖かまってちゃんのアルバム『つまんね』『8月32日へ』や後藤まりこのソロ作品にAxSxEがエンジニアやギタリストや作曲家として参加していたこと。あるいは、挫・人間の楽曲に「明日、俺はAxSxEになる……」というタイトルの、氏へのリスペクトに溢れた曲がある。この曲では全編に渡ってAxSxEへのオマージュに溢れている(「暴徒(=BOaT)化しちゃって」というフレーズもある)だけでなく、彼自身もギターソロで参加している幸福なコラボレーション曲なのだが、この歌詞の中に「ネガティブハッピーです」という歌詞がある。これは挫・人間がこれまたリスペクトしている滝本竜彦氏の小説『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』から取られていることは分かったのだが、なぜAxSxEと関係の無いと思われる『ネガチェン』の引用を?と不思議に思っていたところだった。その疑問が解決したのが件のサブスク解禁でBOaTが話題になった際の滝本竜彦氏本人のツイートで、曰く”ネガティブハッピー”というタイトルは氏がこの曲「Thank You & Good-Bye」を聴いたときの空耳から来ているとのことだった。

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確かに「May God give you happiness」という部分が「ネガティブハッピーです」に聞こえる(しかも同じアルバムに「ネガティブコンディション」という曲があるから、そういう空耳も無理はない)。そういった縁もあって、『ネガチェン』がラジオドラマ化された際はこの曲や同アルバム収録の「夕日」がテーマソングとして使われたらしい。「明日、俺はAxSxEになる……」での例のフレーズも、恐らくこのエピソードを踏まえての引用なのだろう。思わぬ元ネタがわかって驚いたのに加え、挫・人間、滝本竜彦BOaTという僕が好きなもの同士のつながりの系譜も発見できて嬉しかった。こういう風に別ルートから好きになった人や作品に関連があるのを知ると喜びを感じる。

この曲自体の歌詞も素敵で、「電車の窓の景色のように 2人の季節(とき)は流れたけれど/風はいつか止むはずだから 君にシアワセ願ってる」という、素朴で優しくて気分が安らかになるフレーズが好きだ。3拍子のリズムも相まって、「ネガティブコンディション」とは対照的に、聴くと切ない気分になる楽曲だ。バンドの解散ライブでこの曲が明らかにラストソングとして演奏され始めたとき「やるなー!」とヤジが飛んだというエピソードも見かけて、良いなあ~と思った。

 

The ピーズ「好きなコはできた」

映画『マイ・ブロークン・マリコ』のEDに「生きのばし」が使用されたこともあり、改めてピーズのいろんな曲を聴いたが、今一番刺さったのがこの曲だった。

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改めて指摘するまでもないけど、まず曲名がスゴい。「好きなコ”が”できた」ではなく「好きなコ”は”できた」。あと割と最初の方で「そばにいなくても この世にいなくても」っていきなり身も蓋もないことを言うし、「君が夢を捨てたまま プライドもないならこいよ」「ぬれない相手を 質草にかえて」みたいな露悪的な部分もある。ほんとに”好きなコはできた”だけの、他に何もない状態の男が最大限に浮かれてる歌だと思うと、泣かせるし、同時に希望も感じる。「ないよりは 何もないよりは」…と、かすかな手掛かりめいた幸せをなんとか掴もうとする心情、そのギリギリさが、実際に恋をしていてもいなくても思いっきり自分事として感じられて、何も良いことが無いウダウダした気持ちの日に一日中聴いていた。

ギターコードが比較的簡単だったから自分で歌おうとしたけど、後半の半分語りみたいになる歌い方が全然わかんなかった。はるってシンガーとしても相当スゴいと思う。

それにしてもこれが収録されている『とどめをハデにくれ』というアルバム、最初の2曲が「映画(ゴム焼き)」「好きなコはできた」と7分越えの大曲、その次も「日が暮れても彼女と歩いてた」って名曲が続く、初っぱなから大ボリュームの作品ですごい。ちなみに超名曲「とどめをハデにくれ」はこのアルバムには収録されていないので注意が必要。

 

大森靖子「VOID」

「好きなコはできた」と同じ日にやっぱり一日中聴いていた曲。10月は大森さんのインストアイベントに行けた。緊張したけど少し会話できて良かった。そのミニライブで「VOID」が聴けたんだけど、あまり聴き込んでいない曲だったのでサビまで何の曲か分からなかった。改めて持ってる音源で聴いたら歌詞も曲調もかなり好きで、最近の(といっても数年前だけど)曲の中では一番好みの曲だと思った。

個人的な見方・感じ方だけど、大森靖子さんの曲はどれもあくまで女性目線で、それゆえ男性リスナーである自分は居心地の悪さを感じるところがある。これは決して悪い意味ではなくて、それゆえ生じる突き放された感じからかえって信頼感を覚えたり、それでもなお共感できる一部分がいっそう大切に思えたりするところが、彼女の曲の好きなところだ。ほかの僕が好きなアーティストは(女性アーティストでも)歌にかなり自分を投影して好きになるのだが、彼女の曲に関しては常に性差から来る距離を感じながら接している。一人称や二人称でなく三人称として、ときどき共鳴を感じる、くらいの感覚だ。

「VOID」はおそらく男性目線の曲だけど、やはりこの曲も男性が歌うと成立しないと思う。かなり危うい、しかも現実に存在するであろう関係とシチュエーションを歌ったこの曲は、作詞者や歌手が男性だったとしたら、同じ歌詞だったとしても、男女関係の歪みの部分だけを感じさせるあまりにもドギツい曲になってしまうだろうと思う。それを大森さんが書き、歌う事で、歌われている状況の美しさや愛おしさがギリギリ掬い出せているところがこの曲の良いところだ。

世間的には決して褒められたものではない人・出来事・感情・関係性について、それでも存在する、あるいはそれにしか存在しないポジティブな何かをギリギリ掬い出しているということが、歌詞に限らず映画や小説など作品一般に対して、僕が良いと感じる基準の一つだ(例外はあると思う)。この曲はまさにそういった、誰も光をあてないところにちょっとだけ光を当ててくれるような、でも少し突き放しているような、この曲にしかない種類の優しさがこもっている歌詞だと感じる。

ちなみに僕が聴きまくったバージョンはアルバム『クソカワPARTY』のフィジカル盤にしか収録されていないトラック。アコギ1本で弾き語り形式のすごくシンプルな演奏で、サブスクにあるバージョンとはかなり印象が違う。

 

ドレスコーズ「やりすぎた天使」

ドレスコーズの新譜『戀愛大全』が、かなり良かった。ソロになってからのドレスコーズは、最初の『1』を除き全てチャレンジングなコンセプトを持ったアルバムだった。具体的には、極端にポップなギターロックの『AUDITION』、ファンク調で厭世的な『平凡』、ロマ音楽と終末世界がコンセプトの『ジャズ』、ピアノの弾き語り中心で極度にミニマルな『バイエル』と言った具合。それらは常に今までの志磨遼平のイメージを覆すような衝撃的な作品になっていた。しかし今回は、夏を舞台にしたラブソングという世界観的なコンセプトはあるものの、曲調は全曲いたって普通なポップソングになっていて、直近4作と比べると、志磨遼平本来の持ち味がそのまま出ているようなアルバムだった。そういった意味で、ソロになって最初に出した最少人数で製作された超名盤『1』とどこか重なる雰囲気もある。しかし『1』に漂っている内省的な攻撃性(バンドを自分の手で終わらせた直後なのを踏まえた歌詞が多く、めちゃくちゃ自虐的になっている)は今回皆無で、むしろ本人もインタビューで語っているとおり徹底して三人称視点の曲になっているぶん、気軽に聴くことのできる爽やかさがある。

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特にこの「やりすぎた天使」が一番好き。リード曲なだけあってアルバムで最も陽性の賑やかさがあるけど、歌詞は切なくて、”正しくないもの”への優しい眼差しにも溢れている。多重録音されているボーカルが良い味を出していて、特に低い方の声が耳に心地よい。歌詞を読むとどうやらブロマンス的な物語なのだが、歌われている描写は”恋愛”というよりは、友情、もしくは失われたものを惜しむ気持ちといったニュアンスに感じる。しかし「ほんとにだめなぼくの天使」と歌ったり『戀愛大全』というタイトルのアルバムに入っていることで、そのニュアンスが限りなく”恋愛”に近づいて微妙なものになっているところが、いいなあと思う。

ドレスコーズもインストアイベントに行った。大森さんとは対照的にシャイな人柄が表われていて、こちらもとても楽しかった。

 

Fishmans「チャンス」

フィッシュマンズは前から聴いてはいたけど、最近特にハマってる。人生が上手くいってないと人はフィッシュマンズにハマるのかもしれない。中でもこの「チャンス」は最初聴いたときから好きだったけど、もっと好きな曲になった。

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最後の「~から好きさ」が続くところが特に良い。「きらいな言葉 言わないから好きさ/タバコを立ててすわないから好きさ/いっしょうけんめい話すから好きさ/わかったような顔しないから好きさ/自分の言葉で話すから好きさ/悪口ばかり言ってるから好きさ/ただ ただ楽しい あなたが好きさ」良すぎるので全部書いちゃった。この表記のひらがなと漢字の使い分けも良いんだよな。わかりやすくポジティブなことだけじゃなくて「悪口ばかり言ってる」みたいに一見ネガティブなことも「好きさ」と言ってくれるところが信用できる。音源によって「とっても静かな顔をするから好きさ」や「とっても普通で変わってるから好きさ」など微妙に変わることがあるのもおもしろい。

もちろんこの部分以外の歌詞も好き。QJ(クイック・ジャパン)のフィッシュマンズ特集が載ってる号を持ってるんだけど、エンジニアの人が「ビー玉みたいなきれいな眼」ってサトちゃん本人がまさにそうだって言ってた。このQJ18号はトモフスキーの特集も載っていて、サトちゃんもトモフもインタビューの中で散歩とTV鑑賞ばっかり毎日してると言ってておもしろかった。

 

 

というわけで、10月はこれらの曲みたいな感じの毎日でした。