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大槻ケンヂ全オリジナル・アルバムレビュー③ 筋肉少女帯 後編

agriy.hatenablog.com

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第3回目です。筋肉少女帯の13枚目~20枚目のアルバム、いわゆる”仲直り”以降の作品をレビューしていきます。もうすぐ21枚目のアルバムが出るようですが・・・。

回を追うごとにどんどん各アルバムに対する文章量が増えていっていますが、特に再結成後の筋少はリアルタイムで買ったものや繰り返し聴いたものが多いこともあり、第1回の「筋肉少女帯 前編」と比べてかなりの長文になりました。こうなると第1回や第2回の文章も加筆したくなりますが、べつに無理矢理長文にしたところで良い文章になるわけでもないかな~とも思っています。

例によって太字で挙げた曲がオススメです。

 

13.『新人』2007年

新人

新人

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2007/09/05
  • メディア: CD
 

 凍結直前期ののたうち回るような凄まじさから一転、「仲直りのテーマ」であまりにも能天気に再始動を宣言するあたり、やはりこのバンドは一筋縄ではいかないと再確認させる、筋肉少女帯約10年ぶりの新譜。「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」は休止前筋少の大名曲「蜘蛛の糸」を彷彿とさせる歌詞とギターフレーズだが、こちらは明らかに希望と開放感に満ちた陽性の曲になっており、筋少の変わっていない部分と成長・変化した部分が端的に表われている。

 歌詞面で特に印象的なのは「その後 or 続き」で、私小説風の雰囲気ながら内容自体は明らかに創作然としているという、不思議なバランスの作品になっていて新鮮味を覚える。

 また、自己言及的な歌詞が多いのも本作の大きな特徴。「新人バンドのテーマ」などそのままズバリの曲もあるが、「抜け忍」や先に挙げた3曲にもその要素があり、これら”再結成バンド自己言及シリーズ”とでも言うべき楽曲群がアルバムの中でもとりわけ魅力を放っている。単体で聴いても優れたアルバムだが、筋肉少女帯というバンドのストーリーを読み解く重要なピースとしても、非常に面白い作品。

14.『シーズン2』2009年 

シーズン2

シーズン2

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/05/20
  • メディア: CD
 

  ロックバンドをやっている喜びを高らかに表現する先行シングル「ツアーファイナル」、無謀な勝負に挑む勇者を鼓舞しつつも「タチムカウ」ほどの悲愴感はない「心の折れたエンジェル」筋少史上初の”結婚式で使える”ナンバー「世界中のラブソングが君を」など、王道の格好よさ、美しさを追求した曲が並ぶ本作。これまでにも『エリーゼのために』『キラキラと輝くもの』といったポジティブ志向の作品はあったが、それらと違っているのは、”オーケンがあえてポジティブさを追究している”という背景抜きで、ストレートに心に響く作品となっている点である。

 「人間嫌いの歌」「プライド・オブ・アンダーグラウンドで歌われるやや屈折した自意識やネガティブさも、切実に迫ってくるモノというよりはどこか客観視したニュアンスでカラッと歌われており、良くも悪くも大人になった印象。そうしたオーケンの変化を踏まえて「蓮花畑」を聴くと、成長や老いというものへの哀感に説得力が感じられる。

 筋肉少女帯再始動直前に「大槻ケンヂと橘高文彦」名義でアニメ『N・H・Kにようこそ!』EDテーマに起用され、筋少復活のきっかけとなった超名曲「踊る赤ちゃん人間」筋少ver.で収録されているのもうれしい。

15.『蔦からまるQの惑星』2010年

蔦からまるQの惑星

蔦からまるQの惑星

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2010/06/02
  • メディア: CD
 

 活動凍結の最中である2005年に橘高文彦への提供曲として例外的に筋少メンバーが集結した「DESTINYをぶん殴れ」の替え歌「アウェー・イン・ザ・ライフ」(元の歌詞の作詞者である水戸華之介もクレジットされているが、大槻がほぼ完全に歌詞を書き直している)、活動凍結直前の1998年に大槻のソロプロジェクトで発表され、筋少の終焉とその後の和解までを予見したかのような歌詞の「ワインライダー・フォーエバー(筋少Ver.)」の2曲は、バンド再結成後の彼らが奏でること自体が感慨深い、ファン泣かせのリメイク。

 妄想上の愛娘が登場する一連の楽曲群の第一弾とでも言うべき「あのコは夏フェス焼け」など、オジサンぽさを隠さなくなってきたオーケンの愛すべき通俗性が前面に出ているのは、彼の表現の変遷として興味深いところ。「若いコとドライブ~80’sから来た恋人~」はタイトルも無邪気なオマージュもつい笑ってしまう1曲だが、〈価値も 意味も 壊れ 変わりゆく 容赦なく 夢みたいに 生きてきた〉〈思い出は 去っていった 明日から どうしよう 生きていこう〉というフレーズは、何かに熱狂した経験のある人であれば心に刺さる歌詞である。

 「ゴミ屋敷の王女」は社会からはぐれて惨めに消えていく存在を温かく描いた、「ペテン師、新月の夜に死す!」や「サボテンとバントライン」等にも通ずるオーケンの本領発揮というべき隠れた名曲。

 

16.『THE SHOW MUST GO ON』2014年

THE SHOW MUST GO ON【通常盤】

THE SHOW MUST GO ON【通常盤】

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2014/10/08
  • メディア: CD
 

 特撮の活動や筋少のセルフカバーアルバム『4半世紀』の発表などを挟んで、筋肉少女帯のオリジナルアルバムとしては4年ぶりとなった作品。大槻がももいろクローバーZに作詞提供した楽曲のカバー労働讃歌が2曲目に据えられていることからも、全体としてマス層へストレートに受け入れられるような作品を志向していることが窺える。特に「ゾロ目」「恋の蜜蜂飛行」は、ややオカルティックなストーリーを語ってはいるものの、アングラ・サブカル的な要素の散りばめやひねりの利いた結論といったものは全く入っていない。しかしそれでもこの2曲は筋少らしさ全開の傑作として聞こえるところに、このバンドの守備範囲の広さが実感できる。

 一方で、津山三十人殺し都井睦雄を題材にとった「ムツオさん」のような、最初期を思わせるアングラな曲、あるいは「月に一度の天使(前編)」「(後編)」のような特撮以降たびたびあるトホホ感たっぷりの歌詞などもあり、筋少大槻ケンヂの多彩な魅力がまんべんなく詰まったアルバムでもある。

 ライブやツアーを題材にとった歌詞が多いのも特徴で、1曲目の「オーディエンス・イズ・ゴッド」で始まり、ラスト2曲の「気もそぞろ」「ニルヴァナ」で終わるというひとつのライブ公演をイメージしたような曲構成である。こうしたコンセプトの綺麗さも含め、再結成後筋少の中では最もストレートに薦めやすい名盤である。

 

17.『おまけのいちにち(闘いの日々)』2015年

おまけのいちにち(闘いの日々)

おまけのいちにち(闘いの日々)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2015/10/07
  • メディア: CD
 

 前作『THE SHOW MUST GO ON』で極まった陽性のゴージャスさから一転、ややダークな雰囲気と渋めのノスタルジーを感じさせるアルバム。「レジテロの夢」「混ぜるな危険」オーケンの少年性が全開になったような、中2心をくすぐる快作。特にアニメ『うしおととら』の主題歌となった後者は筋少のレパートリーの中でも最もストレートに”カッコいい”ナンバーになっている。

 「別の星の物語り」「おわかりいただけただろうか」の2曲は、どちらもかつての恋人に対して過去をふりかえり肯定する内容になっており、曲調はバラードとハード・ロックで正反対だがメロディが似通っていることからも、対になっているように感じる。

 少年性の発露も含め、自分たちの”過去”と向き合うことがこのアルバムを等して一貫したテーマとなっているが、それが一風変わった形で現われているのが「LIVE HOUSE」。この曲はGt.本城聡章が10代の頃作詞作曲したもので、あまりに純粋ポップ志向な作風のため当時は大槻らにからかわれていたが、とあるきっかけで再演したことでメンバーもこの曲の良さを再発見し、30年以上を経て収録されることになった、という経緯がある。この曲が収録されたこと自体が、過去をふりかえったときに恥ずかしさも含めて肯定できるようになった、という本作に通底するモチーフと一致している上に、珍しい大槻と本城のデュエットの楽しさも相まって、印象深い名曲になっている。

 「S5040」「夕暮れ原風景」という落ち着いた2曲で締めるエンディングも、筋少の中では異色で味わい深い。

 

18.『Future!』2017年 

Future! (通常盤)

Future! (通常盤)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2017/10/25
  • メディア: CD
 

  タイトルからもわかる通り”未来”をテーマにした本作は、”過去”をテーマにした筋少の前作『おまけのいちにち(闘いの日々)』とわかりやすく対をなしている。あるいは、順番的に『おまけの~』と本作の間に位置する特撮『ウインカー』(2016年)を”過去と未来をつなぐ分岐点=現在”がテーマの作品と置き、『おまけのいちにち(闘いの日々)』『ウインカー』『Future!』を過去ー現在ー未来の3部作とみることもできるかもしれない。

 本作で示される”未来”は死や喪失といった暗い可能性をも含むものであり、Future!という威勢の良いタイトルから想起されるポジティブなイメージとは必ずしも一致しない。たとえば1曲目のオーケントレイン」では未来とは来世のことかもしれないと歌われるし、「ハニートラップの恋」(映画『パルプ・フィクション』へのあからさまなオマージュが微笑ましい)や「3歳の花嫁」といった物語仕立ての曲は、主人公に死が訪れる。しかしこれらの曲がいずれも明るさと楽しさに満ちて聞こえるのは、そうした悲劇も見据えた上で、それでも”未来”というものに希望を託さずにはいられない、悲観主義紙一重の、ある種究極のポジティブさが込められているからである。

 白眉はサイコキラーズ・ラブ」「告白」。「サイコキラーズ・ラブ」は、決定的な欠落を補い合える相手がいるかもしれないという希望が優しいメロディで歌われる泣かせの1曲。一方「告白」は世間一般で美徳とされている”人間らしさ”に共感できないことを、極めてストレートな”告白”形式で逆ギレ気味に歌う、オーケンの毒っ気全開の1曲になっている。この対照的な2曲に共通するのは、いわゆる”サイコパス”といわれるタイプの人間、つまり共感や愛を自明のこととして考えることに抵抗がある人の、生きづらさと孤独に寄り添う曲ということである。そうした自意識の問題を抱える人は(特にオーケンのファン層には)多いが、この2曲はそのような人にこそ共感や愛を与えてくれる、ある意味矛盾した効果を持ってしまっている名曲。この2曲が収録されているというだけでも大切に思えるアルバム。

 

 

19.『ザ・シサ』2018年 

ザ・シサ (通常盤)

ザ・シサ (通常盤)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2018/10/31
  • メディア: CD
 

  メジャーデビュー30周年記念と銘打った、アニバーサリー色の強いアルバム。筋肉少女帯の活動を2018年当時の視点で自ら読み直した「I,頭屋」、若き日のステージに立つ自分を第三者視点で回想しつつ、最後のオチに驚愕を禁じ得ないネクスト・ジェネレーション」といった、30周年の節目を全面に押し出した曲が並ぶ。

 壮大な物語と脱力感溢れる語り口のギャップが何とも言えない「オカルト」、同時期に始まったソロプロジェクト・大槻ケンヂミステリ文庫(オケミス)のレパートリーにあってもおかしくないようなマリリン・モンロー・リターンズ」などが印象的。この2曲をはじめ全体的にオカルト要素が多く散りばめられているのも本作の特徴で、再結成後のアルバムの中では最もダークで奇妙な雰囲気を持った作品になっている。

 本作最大の魅力を持つ名曲は「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」であろう。主人公と微妙な関係にあるヒロインが恋人を殺してしまうという設定は、『キラキラと輝くもの』収録の「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」を直接的に思い出させるが、ここでは“葬式”や“裁判”といった身もフタもない”その後”に主眼を置き、大人っぽい苦味をたたえている。サイコなキャラや背徳的な物語のもつ耽美性を徹底的に排除し、あくまで現実の生活の延長線上にありそうなやりきれない内容の歌詞にしたことは、オーケンの意地悪さと見るべきか誠実さと言うべきなのか…という、まるでこのアルバムのコンセプト〈視差(シサ)を利用したなら同じ対象も異なって見える〉そのもののような考えを巡らせてしまう1曲。

 

20.『LOVE』2019年

LOVE (通常盤)

LOVE (通常盤)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: CD
 

 ここに来て『LOVE』というタイトルのアルバムを発表することそのものがバイオグラフィー上の凄味になっている、通算20枚目のアルバム。

 〈ありがと ごめん おはよう おやすみ また会えたらいいね こんにちは さよなら 愛してた〉という言葉を大切な人に今すぐ伝えようと訴える「from Now」、ハリウッドスターに自分を重ねることでつらさを相対化したり、自分や他人を尊重したりできるようになるというライフハックを教えてくれる「ハリウッドスター」など、いつになく具体的なメソッドで人生を励ましてくれる曲が並ぶ。これらの曲はともすれば説教臭かったり空々しくなりそうなものだが、それでも自己啓発的にならずに楽しく聴かせているのは、歌詞の絶妙なユーモアもさることながら、筋肉少女帯が大仰な演奏で祝福するように奏でていることの楽しさ、バカバカしさという、このバンドならではのバランスである。

 その一方で「愛は陽炎」「ボーン・イン・うぐいす谷」では、幻や理想を夢見ることの儚いながらも尊さを、俯瞰的な視点もありつつエモーショナルに描いてみせる。「ドンマイ酒場」「直撃カマキリ拳!人間爆発」はコント要素の入ったトボけたストーリー仕立てだが、コミカルさの裏に人生の哀しさを肯定する力強さをもつ、隠れた名曲である。

 再結成後のアルバムではライブやアーティストをテーマにしたメタ的な曲が多くなっていたが、本作では喝采よ!喝采よ!」の1曲にとどめられている。しかもここで描かれる”ステージに立つ”という行為はこれまでより抽象化されており、人前で歌うという生き方の業を描いたより普遍的な話になっている、一連のメタ的な曲の決定版的な1曲となっている。

 年齢を重ね精神的に安定した事からくる器用さと、それなりに紆余曲折ある人生を送ってきたがゆえの優しさがどちらも高いレベルで作品に現われているのが本作。筋肉少女帯全キャリアを通しても最高傑作のひとつとして差し支えない、屈指の名盤である。

 

 

 

第4回はソロ、UGS、電車、絶望少女達、オケミスなどのプロジェクトで出されたアルバムをまとめて紹介する予定です。乞うご期待!