トリトメル

日常生活維持ごっこ

神聖かまってちゃん 全アルバムレビュー? 1枚目『友だちを殺してまで。』

神聖かまってちゃんが現体制になってからなかなかNEWアルバムを出さなくて寂しいので、今まで出たアルバムを改めて聴いて思いの丈を書き記します。1枚目はインディーズレーベルから出たデビュー作『友だちを殺してまで』です。当時から今に至るまでさんざん批評されてきた作品なので今更感がすごい!

 

『友だちを殺してまで。』(2010/03/10発売 パーフェクトミュージック)

収録曲

①ロックンロールは鳴り止まないっ/②ぺんてる/③死にたい季節/④23歳の夏休み/⑤学校に行きたくない/⑥ゆーれいみマン/⑦ちりとり/(シークレットトラック・バイトなんかでへこたれないぞっ)

 

 記念すべき1stアルバム。とはいえここに至るまでライブやネット上のデモ音源で既に大量のレパートリーが発表されており、その中から選りすぐりの曲が選ばれている、言うなればベストアルバム的な意味合いもある作品である。

 

 そういうコンセプトで作られただけあってどの曲も初期かまってちゃんの代表曲となっているが、なんといっても①が圧倒的。この曲が堂々と1曲目に置かれていることで、挑戦的なバンド名やアルバム名、アートワーク(裏面ジャケットがちょっと怖い)から受ける印象からは程遠い、単に過激さや奇を衒っただけのバンドではない良質なソングメーカーであることを示している。それと同時に、ここで歌われているのは、ロック史の中で自分たちが名を刻む存在であること、そこで自分たちがどういう立ち位置であるかを俯瞰的に見据えていること、「遠くで近くで」とあるようにインターネットを通じてリスナーとの距離感のあり方に革新をもたらすこと等、神聖かまってちゃんという存在の何たるかを明確に示した宣言である。そのアティチュードは単なる初期衝動という言葉では表せない聡明さと、どんな受け手の存在も念頭に置いている覚悟の強さ、そして優しさをたたえている。

 

 ②も①と同じくピアノの音が印象的な、屈指の美メロ曲。歌詞の内容は①よりもグッと内省的になっており、むしろこちらが本懐といったところだろう。「放課後はまた蛙道/ゲロげーロだぜくそがぼくは/ゲロまみれだくそがまじで/どうでもいい」という歌い出しからすでに、汚さと可愛げ、即物性と叙情性、そしてユーモアが同居する、の子特有の詞世界を味わわせてくれる。「ぺんてる」というのは彼が子供時代よく通っていた駄菓子屋の愛称らしいが、歌詞の中でそのことはハッキリ説明されてはいないため、「ぺんてるぺんてるに」という繰り返しの響きが抽象性を帯びることとなっている。このように歌詞に理屈を求めすぎないスタンスは、詞が単にメッセージの伝達ではなく音楽に寄り添った自由度の高い言葉であるという意味で、神聖かまってちゃんの音楽性を支える重要な要素であると思う。後半の語りパートから最後にかけては、リズミカルに、そしてなだれ込むようにエモーションが高まっていく、かまってちゃんの曲の中でも他に類を見ない盛り上がりである。

 

 屈指の名フレーズがギターで刻まれるイントロで幕を開ける③は、「死にたい季節」という刺激の強いタイトルとは裏腹に、ゆっくりと語りかけるように諦めの境地が優しく歌われる。「ラジカセ」というアイテム選びが特に素晴らしい。自分の音を流すための道具であり外の音を受信するための道具でもあるラジカセが「流れない」と歌う事で、多角的に孤立というものが表現されている。前半の詩がレトリックに富んだ豊かな言葉遣いであるのに対し、後半がサビと「僕は早く死にたい」の繰り返しになっていく切迫感が何とも胸を打つ。

 

 ④はこれ以降何度もリメイク・変奏されるアンセム。「23才」という年齢は、人生を順調に進めてきた人であれば皆社会人1年目を迎えているはずの年という点で意味深い。歌詞中では無職・ニートを直接的に思わせる言葉が一切出てこないにもかかわらず、明らかにそういった状況の人物が歌っていることを否が応でも想起させる詞は、代表曲になるのも当然の完成度。Cメロで照れ隠しのように他愛のない言葉遊びが繰り返された後、思い出したように「そういや君はどうしているのかな」と顔を覗かせる素直な切なさが泣ける。

 

 ⑤はこのアルバム唯一の、パンクらしいわかりやすい攻撃性を持った曲。ごくミニマルな歌詞の中に含まれる情報は「学校に行きたくない」「計算ドリルを返してください」の2つのみ。前者から後者への急激なズームアップによって、「学校に行きたくない」という漠然とした憂鬱と、いじめっ子に計算ドリルを盗まれるという実在感に満ちた絶望とを行き来する。かまってちゃんの攻撃性は常に、無力な嘆きとして、または自分に向けたものとして投げられる。

 

 引き続き学校を舞台にした悲惨な歌詞の⑥は、自殺願望を持つ少年がそれがなんの成果も生まないことを知りつつ結局は自殺してしまうという、⑤を上回るほどの救いのない内容である。それでいてメロディは童謡風で親しみやすかったり、「ゆーれい」という表記や「ゆーれいみマン」というダジャレ、「あげぱんでも買ってあげなさい」のくだりなど、そこはかとなくユーモアも感じさせたりもするところにこの曲の凄味がある。ラストの4行は皮肉っぽさと悲しみと美しさが最高レベルで結実した詩情あふれるフレーズで、カタルシスの極地。また、細かいところだが、「僕のことを」の一言が歌詞カードに記載されていないところに、どことなく奥ゆかしさを感じる。

 

 徐々にネガティブさを増していくゆるやかな地獄めぐりのような②~⑥を経て、アルバムのラストを飾る⑦は、ただただ純粋でプリミティブな恋の物語である。他者から疎外され、攻撃され、自己嫌悪にさいなまれてばかりの人生に、それでもかろうじて救いのようなものがあるとすれば、この曲で歌われているような感情なのではないだろうかと思わせる美しい曲。⑥の「僕のことを」と同じく、「この馬鹿野郎がー!」(聴き取りにくいけどたぶんこう言っている)や「走って」という部分などが歌詞カードには記載されていない。いっぽう歌詞カードに書かれている「僕もあなたをちりとりたいのです/奥まで/奥まで」という最後の3行は実際に歌われない。このように歌詞カードと実際の歌唱に微妙なギャップがあることで、より”ナマの感情”、”いまの感情”っぽさを生じさせている。

 

 本編からブランクを挟んで隠しトラックとして「バイトなんかでへこたれないぞっ」という曲が収録されている。おそらく実体験そのままであろうストレスフルな状況を歌った歌詞だが、全編とにかく笑える。嘆きや怒りといった感情を大事にしているの子だが、状況を客観視して可笑しみを見出すことも決して忘れない、彼の人間的魅力として重要な一面が確認できる曲である。ユーモアセンスとしてももかなり秀逸で、「やる気あります清掃します」のところは絶対笑ってしまう。このようなコミカルに振り切った曲を本編には入れず、ボーナスとして収録するバランス感覚も評価すべき点である。

 

 このアルバムの特徴として、「子ども」というキーワードが挙げられる。全7曲中5曲が明確に小学生~高校生視点の歌詞で、「ジャポニカ学習帳」「計算ドリル」「掃除当番」など象徴的な単語も登場する。例外である③と④も、前者は「知恵の林檎を今更食べても遅いから」という表現で、後者では「夏休み」という児童を思わせる単語で、成熟できなかった大人を表現している。その他、ジャケットのブランコやタイトルの「友だち」という表現も幼児性を感じさせるし、そもそもバンド名が「ちゃん」で終わることや「の子」という名前も「子ども」を連想させる。

 前述の通り、既に大量にあったレパートリーの中からCDレビューに際してベスト的に選曲したのが本作だが、そうして選ばれた曲に「子ども」の要素が多いのは興味深い。トラウマや怒り、初恋や希望といった、神聖かまってちゃんのテーマの核となる要素は、多くの人にとってもそうであるように、の子の子ども時代が源泉となって生み出されていることを伝えている。また、リスナーにとっても、神聖かまってちゃんという存在が「子ども」のイメージをまとって音楽業界に正式に現われたことの意味は大きかったであろうと思う。当時のかまってちゃんはその純粋さ、攻撃性、弱々しさ、得体の知れなさ、将来性、そしてキュートさといったあらゆる意味で、まさに「恐るべき子どもたち」だったのだろう。しかしそのイメージも、ある種彼のクレバーで冷めた「大人な」部分によって造り上げられたものでもあることがまた、神聖かまってちゃんがしばしば持つ、油断のならない両義性を感じさせてくれる。

『NHKにようこそ!』3媒体比較感想

2021年、滝本竜彦氏の代表作「NHKにようこそ!」の新作「新・NHKにようこそ!」が、彼の所属するバンド拳作家集団“エリーツ”の同人誌上で発表されました。これを機に、過去小説、漫画、アニメの3媒体で展開された「NHK」を再読、再視聴した感想のメモです。

 

アニメ『N・H・Kにようこそ!

N・H・Kにようこそ! (gonzo.co.jp)

2006年7月~2006年12月放送

 

・漫画版の連載途中に制作・放映されているため、アニメ前半部は漫画版ベース、後半部は小説版ベースの展開になっている。

・いちばん良くまとまっていて、エンタメとして観やすい作品になっている。

・前半のモラトリアム生活描写は、悲惨さよりもむしろダウナーな青春っぽさを感じて心地よい。佐藤、岬、山崎に対して愛着が湧きやすく、ずっと彼らの生活を観ていたい気分になる。

・アニメとしてはそこそこ良いクオリティーだと思う。ただし、4話と19話は作画が荒れているというか独特の画風で戸惑った。特に19話は話の内容もキツいので、ちょっと体調の良い時じゃないと観れない。

・音楽がめちゃくちゃ良い。OPの「パズル」、EDの「踊る赤ちゃん人間」「もどかしい世界の上で」はもちろん、パール兄弟による劇伴も素晴らしかった。サントラアルバムを今回初めて聴いたが、ほぼ全部歌詞がついててビックリした。

・自殺オフ会回のオチがより納得いくものになっていたり、岬の母親のエピソードがより明確なものになっていたりと、漫画や小説に比べて腑に落ちる展開になるようブラッシュアップされていて、これが見やすさにつながっていると思う。

 

小説『NHKにようこそ!

2001年連載、2002年単行本発刊、2005年文庫化

 

・アニメ版のあとに読むと、思ったよりエピソードが少なく感じた。そのぶんタイトで直線的な話運びになっていて、この物語の本筋がよりクッキリした。

・あくまで主人公佐藤の物語が主軸になっている。

・作者独特の文体がそのまま主人公佐藤のパーソナリティを体現しているため、佐藤の独白やモノローグがこの作品の大きな魅力を為している。文章表現ならではの勢いや、地の文のどこかズレた感覚によるおかしみが独特の味わいがある。特に、エロテキストを書きながら自己嫌悪に陥る描写が秀逸だった。

・佐藤に比べて、山崎や岬といったキャラクターは比較的内面描写が少ない。ただし、山崎が完成させたエロゲーの文章で最終的な彼の本心がわかる展開があったり、岬のある計画が物語の裏で進行していたことが明かされたりと、ドラマチックな形で彼らのキャラが立っている。

・柏先輩がらみの描写が良かった。佐藤の初体験にまつわるエピソードは「NHKにようこそ!」シリーズの中でも一番引っかかりやすいところだが、小説版がもっとも露悪的でひねくれた描写になっている。これと同じモノローグを漫画版やアニメ版の佐藤に言わせてしまうと、キャラクターに絵が付いているぶんイヤな感じが出すぎてしまい感情移入の妨げになってしまうと思う。しかし小説の文字面だと普通に読めるし、佐藤のひねくれ方の根深さがわかる重要なエピソードになっている。ほかの場面でも佐藤と柏先輩の互いに軽口を叩きあう関係が見え、腐れ縁といった感じの微笑ましい関係にも思えた。柏先輩は小説版だと2・3回しか出てこないが、こうした小説ならではの佐藤との掛け合いの妙で、愛すべきキャラクターになっている。

 

漫画『NHKにようこそ!

 2004年~2007年連載 全8巻

 

・エピソードの詰め込み方が大胆。読んでる体感としてスピーディーで、スラップスティック的な味わいがある。

・小説に比べて群像劇的な色合いが濃くなっている。佐藤だけでなく岬や山崎も主人公のような扱いになっていて、二人や柏先輩のキャラクターは格段に膨らまされている。その他多数の新しい登場人物が追加され、どれもそれなりにドラマを背負っている。佐藤の両親の描写は特に良かった。

・「原作:滝本竜彦 漫画:大岩ケンヂ」というクレジットになっているが、滝本氏の「原作」は単に原作(小説版)提供という意味ではなく、新たに漫画版のプロットを書き下ろしており、大岩氏と2人でこの漫画を作り上げていることが8巻のあとがきや各巻カバー袖を読むとわかる。つまり滝本氏と大岩氏はこの漫画における佐藤と山崎のような関係である。

・そんな製作体制も影響してか、佐藤と山崎のクリエイターを目指すエピソードが、小説より大幅に膨らまされている。少なくともクリエイターへの道という意味では、3媒体で最も希望のあるラストになっている。

・全体的に、小説版の解体と再構築を目指した作品になっている。小説のエピソードが登場人物を入れ替えて繰り返されることで全く違う意味を持っているという場面が多い。具体的には、「自殺しようとしている岬を電車で追いかける佐藤」という構図が、漫画版では全く逆転して佐藤の自殺を岬と山崎が止めようとする話になっていたり、小説版とアニメ版ではオチになっている「契約」を岬が交わす相手が、佐藤ではなく漫画オリジナルの登場人物になっていたりする。最終回で佐藤が「ダイブ」するのは小説版と同じだが、その状況や目的意識が原作と全然別物になっているのが面白い。

・上記のエピソードの解体にも密接に関わっていることだが、中原岬のキャラクターが相当変わっている。この変更点が原作と漫画の違いとして一番大胆であり、人によってはショッキングかもしれない。漫画版の彼女は、序盤ですでに佐藤の部屋に盗聴器を仕込んでいる描写があるなどかなりヘンな子になっているが、回を追うごとに「構ってちゃん」かつ「ヒロイックシンドローム」な描写が増していく。個人的には、『さよなら絶望先生』の日塔奈美や『かってに改蔵』の名取羽美といった久米田康治作品のヒロインも想起される、好きなタイプのキャラクターになっていたので、この変更は概ね楽しめた。小説では文字通り天使性すらあるヒロインの岬ちゃんだが、漫画版ではより人間くさく厄介なキャラクターになっており、小説岬ちゃんと漫画岬ちゃん2つあわせて魅力的な中原岬というキャラクターになっていると思う。

 ・原作小説の解体、中原岬の再解釈など漫画版独自のツイストを意識するあまり、展開が急ハンドルになりすぎている部分があるのも事実だと思う。ただ、それもこの漫画自体の持つ独特のスピード感を形成する要因となっていて、あながちマイナスとも言えない。

大槻ケンヂ全オリジナル・アルバムレビュー③ 筋肉少女帯 後編

agriy.hatenablog.com

agriy.hatenablog.com

第3回目です。筋肉少女帯の13枚目~20枚目のアルバム、いわゆる”仲直り”以降の作品をレビューしていきます。もうすぐ21枚目のアルバムが出るようですが・・・。

回を追うごとにどんどん各アルバムに対する文章量が増えていっていますが、特に再結成後の筋少はリアルタイムで買ったものや繰り返し聴いたものが多いこともあり、第1回の「筋肉少女帯 前編」と比べてかなりの長文になりました。こうなると第1回や第2回の文章も加筆したくなりますが、べつに無理矢理長文にしたところで良い文章になるわけでもないかな~とも思っています。

例によって太字で挙げた曲がオススメです。

 

13.『新人』2007年

新人

新人

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2007/09/05
  • メディア: CD
 

 凍結直前期ののたうち回るような凄まじさから一転、「仲直りのテーマ」であまりにも能天気に再始動を宣言するあたり、やはりこのバンドは一筋縄ではいかないと再確認させる、筋肉少女帯約10年ぶりの新譜。「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」は休止前筋少の大名曲「蜘蛛の糸」を彷彿とさせる歌詞とギターフレーズだが、こちらは明らかに希望と開放感に満ちた陽性の曲になっており、筋少の変わっていない部分と成長・変化した部分が端的に表われている。

 歌詞面で特に印象的なのは「その後 or 続き」で、私小説風の雰囲気ながら内容自体は明らかに創作然としているという、不思議なバランスの作品になっていて新鮮味を覚える。

 また、自己言及的な歌詞が多いのも本作の大きな特徴。「新人バンドのテーマ」などそのままズバリの曲もあるが、「抜け忍」や先に挙げた3曲にもその要素があり、これら”再結成バンド自己言及シリーズ”とでも言うべき楽曲群がアルバムの中でもとりわけ魅力を放っている。単体で聴いても優れたアルバムだが、筋肉少女帯というバンドのストーリーを読み解く重要なピースとしても、非常に面白い作品。

14.『シーズン2』2009年 

シーズン2

シーズン2

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/05/20
  • メディア: CD
 

  ロックバンドをやっている喜びを高らかに表現する先行シングル「ツアーファイナル」、無謀な勝負に挑む勇者を鼓舞しつつも「タチムカウ」ほどの悲愴感はない「心の折れたエンジェル」筋少史上初の”結婚式で使える”ナンバー「世界中のラブソングが君を」など、王道の格好よさ、美しさを追求した曲が並ぶ本作。これまでにも『エリーゼのために』『キラキラと輝くもの』といったポジティブ志向の作品はあったが、それらと違っているのは、”オーケンがあえてポジティブさを追究している”という背景抜きで、ストレートに心に響く作品となっている点である。

 「人間嫌いの歌」「プライド・オブ・アンダーグラウンドで歌われるやや屈折した自意識やネガティブさも、切実に迫ってくるモノというよりはどこか客観視したニュアンスでカラッと歌われており、良くも悪くも大人になった印象。そうしたオーケンの変化を踏まえて「蓮花畑」を聴くと、成長や老いというものへの哀感に説得力が感じられる。

 筋肉少女帯再始動直前に「大槻ケンヂと橘高文彦」名義でアニメ『N・H・Kにようこそ!』EDテーマに起用され、筋少復活のきっかけとなった超名曲「踊る赤ちゃん人間」筋少ver.で収録されているのもうれしい。

15.『蔦からまるQの惑星』2010年

蔦からまるQの惑星

蔦からまるQの惑星

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2010/06/02
  • メディア: CD
 

 活動凍結の最中である2005年に橘高文彦への提供曲として例外的に筋少メンバーが集結した「DESTINYをぶん殴れ」の替え歌「アウェー・イン・ザ・ライフ」(元の歌詞の作詞者である水戸華之介もクレジットされているが、大槻がほぼ完全に歌詞を書き直している)、活動凍結直前の1998年に大槻のソロプロジェクトで発表され、筋少の終焉とその後の和解までを予見したかのような歌詞の「ワインライダー・フォーエバー(筋少Ver.)」の2曲は、バンド再結成後の彼らが奏でること自体が感慨深い、ファン泣かせのリメイク。

 妄想上の愛娘が登場する一連の楽曲群の第一弾とでも言うべき「あのコは夏フェス焼け」など、オジサンぽさを隠さなくなってきたオーケンの愛すべき通俗性が前面に出ているのは、彼の表現の変遷として興味深いところ。「若いコとドライブ~80’sから来た恋人~」はタイトルも無邪気なオマージュもつい笑ってしまう1曲だが、〈価値も 意味も 壊れ 変わりゆく 容赦なく 夢みたいに 生きてきた〉〈思い出は 去っていった 明日から どうしよう 生きていこう〉というフレーズは、何かに熱狂した経験のある人であれば心に刺さる歌詞である。

 「ゴミ屋敷の王女」は社会からはぐれて惨めに消えていく存在を温かく描いた、「ペテン師、新月の夜に死す!」や「サボテンとバントライン」等にも通ずるオーケンの本領発揮というべき隠れた名曲。

 

16.『THE SHOW MUST GO ON』2014年

THE SHOW MUST GO ON【通常盤】

THE SHOW MUST GO ON【通常盤】

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2014/10/08
  • メディア: CD
 

 特撮の活動や筋少のセルフカバーアルバム『4半世紀』の発表などを挟んで、筋肉少女帯のオリジナルアルバムとしては4年ぶりとなった作品。大槻がももいろクローバーZに作詞提供した楽曲のカバー労働讃歌が2曲目に据えられていることからも、全体としてマス層へストレートに受け入れられるような作品を志向していることが窺える。特に「ゾロ目」「恋の蜜蜂飛行」は、ややオカルティックなストーリーを語ってはいるものの、アングラ・サブカル的な要素の散りばめやひねりの利いた結論といったものは全く入っていない。しかしそれでもこの2曲は筋少らしさ全開の傑作として聞こえるところに、このバンドの守備範囲の広さが実感できる。

 一方で、津山三十人殺し都井睦雄を題材にとった「ムツオさん」のような、最初期を思わせるアングラな曲、あるいは「月に一度の天使(前編)」「(後編)」のような特撮以降たびたびあるトホホ感たっぷりの歌詞などもあり、筋少大槻ケンヂの多彩な魅力がまんべんなく詰まったアルバムでもある。

 ライブやツアーを題材にとった歌詞が多いのも特徴で、1曲目の「オーディエンス・イズ・ゴッド」で始まり、ラスト2曲の「気もそぞろ」「ニルヴァナ」で終わるというひとつのライブ公演をイメージしたような曲構成である。こうしたコンセプトの綺麗さも含め、再結成後筋少の中では最もストレートに薦めやすい名盤である。

 

17.『おまけのいちにち(闘いの日々)』2015年

おまけのいちにち(闘いの日々)

おまけのいちにち(闘いの日々)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2015/10/07
  • メディア: CD
 

 前作『THE SHOW MUST GO ON』で極まった陽性のゴージャスさから一転、ややダークな雰囲気と渋めのノスタルジーを感じさせるアルバム。「レジテロの夢」「混ぜるな危険」オーケンの少年性が全開になったような、中2心をくすぐる快作。特にアニメ『うしおととら』の主題歌となった後者は筋少のレパートリーの中でも最もストレートに”カッコいい”ナンバーになっている。

 「別の星の物語り」「おわかりいただけただろうか」の2曲は、どちらもかつての恋人に対して過去をふりかえり肯定する内容になっており、曲調はバラードとハード・ロックで正反対だがメロディが似通っていることからも、対になっているように感じる。

 少年性の発露も含め、自分たちの”過去”と向き合うことがこのアルバムを等して一貫したテーマとなっているが、それが一風変わった形で現われているのが「LIVE HOUSE」。この曲はGt.本城聡章が10代の頃作詞作曲したもので、あまりに純粋ポップ志向な作風のため当時は大槻らにからかわれていたが、とあるきっかけで再演したことでメンバーもこの曲の良さを再発見し、30年以上を経て収録されることになった、という経緯がある。この曲が収録されたこと自体が、過去をふりかえったときに恥ずかしさも含めて肯定できるようになった、という本作に通底するモチーフと一致している上に、珍しい大槻と本城のデュエットの楽しさも相まって、印象深い名曲になっている。

 「S5040」「夕暮れ原風景」という落ち着いた2曲で締めるエンディングも、筋少の中では異色で味わい深い。

 

18.『Future!』2017年 

Future! (通常盤)

Future! (通常盤)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2017/10/25
  • メディア: CD
 

  タイトルからもわかる通り”未来”をテーマにした本作は、”過去”をテーマにした筋少の前作『おまけのいちにち(闘いの日々)』とわかりやすく対をなしている。あるいは、順番的に『おまけの~』と本作の間に位置する特撮『ウインカー』(2016年)を”過去と未来をつなぐ分岐点=現在”がテーマの作品と置き、『おまけのいちにち(闘いの日々)』『ウインカー』『Future!』を過去ー現在ー未来の3部作とみることもできるかもしれない。

 本作で示される”未来”は死や喪失といった暗い可能性をも含むものであり、Future!という威勢の良いタイトルから想起されるポジティブなイメージとは必ずしも一致しない。たとえば1曲目のオーケントレイン」では未来とは来世のことかもしれないと歌われるし、「ハニートラップの恋」(映画『パルプ・フィクション』へのあからさまなオマージュが微笑ましい)や「3歳の花嫁」といった物語仕立ての曲は、主人公に死が訪れる。しかしこれらの曲がいずれも明るさと楽しさに満ちて聞こえるのは、そうした悲劇も見据えた上で、それでも”未来”というものに希望を託さずにはいられない、悲観主義紙一重の、ある種究極のポジティブさが込められているからである。

 白眉はサイコキラーズ・ラブ」「告白」。「サイコキラーズ・ラブ」は、決定的な欠落を補い合える相手がいるかもしれないという希望が優しいメロディで歌われる泣かせの1曲。一方「告白」は世間一般で美徳とされている”人間らしさ”に共感できないことを、極めてストレートな”告白”形式で逆ギレ気味に歌う、オーケンの毒っ気全開の1曲になっている。この対照的な2曲に共通するのは、いわゆる”サイコパス”といわれるタイプの人間、つまり共感や愛を自明のこととして考えることに抵抗がある人の、生きづらさと孤独に寄り添う曲ということである。そうした自意識の問題を抱える人は(特にオーケンのファン層には)多いが、この2曲はそのような人にこそ共感や愛を与えてくれる、ある意味矛盾した効果を持ってしまっている名曲。この2曲が収録されているというだけでも大切に思えるアルバム。

 

 

19.『ザ・シサ』2018年 

ザ・シサ (通常盤)

ザ・シサ (通常盤)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2018/10/31
  • メディア: CD
 

  メジャーデビュー30周年記念と銘打った、アニバーサリー色の強いアルバム。筋肉少女帯の活動を2018年当時の視点で自ら読み直した「I,頭屋」、若き日のステージに立つ自分を第三者視点で回想しつつ、最後のオチに驚愕を禁じ得ないネクスト・ジェネレーション」といった、30周年の節目を全面に押し出した曲が並ぶ。

 壮大な物語と脱力感溢れる語り口のギャップが何とも言えない「オカルト」、同時期に始まったソロプロジェクト・大槻ケンヂミステリ文庫(オケミス)のレパートリーにあってもおかしくないようなマリリン・モンロー・リターンズ」などが印象的。この2曲をはじめ全体的にオカルト要素が多く散りばめられているのも本作の特徴で、再結成後のアルバムの中では最もダークで奇妙な雰囲気を持った作品になっている。

 本作最大の魅力を持つ名曲は「なぜ人を殺しちゃいけないのだろうか?」であろう。主人公と微妙な関係にあるヒロインが恋人を殺してしまうという設定は、『キラキラと輝くもの』収録の「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」を直接的に思い出させるが、ここでは“葬式”や“裁判”といった身もフタもない”その後”に主眼を置き、大人っぽい苦味をたたえている。サイコなキャラや背徳的な物語のもつ耽美性を徹底的に排除し、あくまで現実の生活の延長線上にありそうなやりきれない内容の歌詞にしたことは、オーケンの意地悪さと見るべきか誠実さと言うべきなのか…という、まるでこのアルバムのコンセプト〈視差(シサ)を利用したなら同じ対象も異なって見える〉そのもののような考えを巡らせてしまう1曲。

 

20.『LOVE』2019年

LOVE (通常盤)

LOVE (通常盤)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: CD
 

 ここに来て『LOVE』というタイトルのアルバムを発表することそのものがバイオグラフィー上の凄味になっている、通算20枚目のアルバム。

 〈ありがと ごめん おはよう おやすみ また会えたらいいね こんにちは さよなら 愛してた〉という言葉を大切な人に今すぐ伝えようと訴える「from Now」、ハリウッドスターに自分を重ねることでつらさを相対化したり、自分や他人を尊重したりできるようになるというライフハックを教えてくれる「ハリウッドスター」など、いつになく具体的なメソッドで人生を励ましてくれる曲が並ぶ。これらの曲はともすれば説教臭かったり空々しくなりそうなものだが、それでも自己啓発的にならずに楽しく聴かせているのは、歌詞の絶妙なユーモアもさることながら、筋肉少女帯が大仰な演奏で祝福するように奏でていることの楽しさ、バカバカしさという、このバンドならではのバランスである。

 その一方で「愛は陽炎」「ボーン・イン・うぐいす谷」では、幻や理想を夢見ることの儚いながらも尊さを、俯瞰的な視点もありつつエモーショナルに描いてみせる。「ドンマイ酒場」「直撃カマキリ拳!人間爆発」はコント要素の入ったトボけたストーリー仕立てだが、コミカルさの裏に人生の哀しさを肯定する力強さをもつ、隠れた名曲である。

 再結成後のアルバムではライブやアーティストをテーマにしたメタ的な曲が多くなっていたが、本作では喝采よ!喝采よ!」の1曲にとどめられている。しかもここで描かれる”ステージに立つ”という行為はこれまでより抽象化されており、人前で歌うという生き方の業を描いたより普遍的な話になっている、一連のメタ的な曲の決定版的な1曲となっている。

 年齢を重ね精神的に安定した事からくる器用さと、それなりに紆余曲折ある人生を送ってきたがゆえの優しさがどちらも高いレベルで作品に現われているのが本作。筋肉少女帯全キャリアを通しても最高傑作のひとつとして差し支えない、屈指の名盤である。

 

 

 

第4回はソロ、UGS、電車、絶望少女達、オケミスなどのプロジェクトで出されたアルバムをまとめて紹介する予定です。乞うご期待!

最近好きな曲(2021年2~3月ごろ?)

最近というか数ヶ月前の時点でハマってた曲です。下書きにリンクだけ貼ってある状態で見つけました。ほんとは長文記事にする予定だったんだろうけど、久々の更新も兼ねてちょっとした解説にとどめてさっさと出します。

 


台風クラブ/下宿屋ゆうれい

良い曲です。このあと台風クラブのアルバム買ったけど全曲良かった。

 


小山田壮平 - 恋はマーブルの海へ (Official Music Video)

良い曲です。この後壮平君のライブ行ったけどすごく良かった。

 


すあだの宗教に入信できない

 これは「すあだ」さんという僕の好きな配信者について歌われているファンアート的な曲なんですが、これだけの名曲があくまで一人のクリエーターに対するファンアートという閉じられた文脈で存在していることに、音楽というものの凄味のようなものを感じて強く感動した曲です。

 


MC Taniguchi - 電脳のディベロッパー

 良い曲です。カルチャー単語の散りばめ具合が好みすぎる。

 


슈퍼히어로 (영화 엑시트 삽입곡) SUPER HERO (EXIT OST Ver.)

これは『EXIT』という韓国映画のエンディングテーマなのですが、ポップで絶妙にダサい雰囲気が映画の感じとも相まって大好きになってしまった曲です。 

 


さっちゃんのセクシーカレー

良い曲です。大森靖子のなかで今のところ一番好きかも。

 


小沢健二 恋しくて

良い曲です。小沢健二の中で今のところ一番好きかも。シングルは絶版で持ってないしサブスクにもないのでYouTubeで聴くしかないやつです。

 

 

 

大槻ケンヂ全オリジナルアルバムレビュー② 特撮編

前回「筋肉少女帯 前編」を書いて以来、文章を書く余裕や時間がなくなりこのシリーズを更新できずにいたのですが、こっちがモタモタしているうちに特撮のニューアルバムが発売となりしまた。未だにコンスタントな活動を続ける大槻ケンヂ氏のバイタリティーは本当に尊敬します。

第1弾は『最後の聖戦』までの筋肉少女帯について書きました。続く第2弾は結成後の筋少について書くべきか、それとも筋少活動休止後に結成された特撮について書くべきか少し悩みましたが、新譜発売という事もありやはり特撮をフィーチャーすることにしました。前回同様、入門編となるようなディスクガイドを目指し、アルバム内でオススメの曲を太字にしています。

第3弾「筋肉少女帯 ”仲直り”以降編」も近いうちに書こうと思います!

 

1.『爆誕』2000年 

爆誕 [HQCD]

爆誕 [HQCD]

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2015/03/04
  • メディア: CD
 

 

 筋肉少女帯の活動凍結後、新バンド〈特撮〉としての1枚目。この作品のみ内田雄一郎(Ba.)が筋少から引き続きメンバーとして所属していたり、本城聡章が作曲した曲が収録されていたりと、後年の作品と比べると筋少との地続き感も多少残っている。しかし、主にNARASAKI(Gt./サウンドプロデュース)の手による筋少とは全く異なるサウンドで、大槻ケンヂのフレッシュな一面を引き出している。デビューシングルとなったアベルカイン」のシンプル極まりない歌詞や、パンクバンド特撮としてのアティチュードを表明する「特撮のテーマ」などは、後期筋少の複雑な要素を盛り込んだ歌詞からの反動とも思えるほど単純明快な初期衝動を打ち出している。一方「身代わりマリー」「ピアノ・デス・ピアノ」など一連のコンセプト楽曲は、生死に対する冷め切った視線がこの時期特有のカラーとして印象に残る。「文豪ボースカ」も一見悪ふざけのようだが、自らの悩みと自意識に見切りを付けたかのような諦念と虚無があとに残る。オーケンのアルバム至上最もソリッドな異色作にして名盤といって良いだろう。

 

2.『ヌイグルマー』2000年 

ヌイグルマー [HQCD]

ヌイグルマー [HQCD]

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2015/03/04
  • メディア: CD
 

 

 内田雄一郎が脱退、NARASAKIが楽曲の多くを作曲するようになり、現体制特撮の礎が築かれた作品。イントロダクション的1曲目を経て表題曲「ヌイグルマー」(のちに「縫製人間ヌイグルマー」として大槻自ら小説化、さらに「ヌイグルマーZ」として映画化もされている。すなわち原作小説に先行した映画主題歌である)、GASTUNKのカバージェロニモが冒頭部に連続し、ストレートな格好良さで掴みを決めている。しかし本作で強烈に印象に残るのが、アルバムのちょうど中央部に配置された「企画物AVの女」「ケテルビーの2曲である。どちらも奇天烈な発想から始まりながら、前者では人生の不条理によってもたらされる極限の悲惨さと滑稽さを、後者では表面的な事象と本質的な物事には齟齬があり希望と絶望は表裏一体の存在であることを突きつけてくる。コミカルな曲と思わせてその実普遍的な人生哲学と魂の叫びを内包させる語り口それ自体が、そこで語られるメッセージの内容ともリンクしているという、大槻ケンヂ作品の中でも完成度の異様に高い2曲である。そのほか、ヘヴィなサウンドと端正なメロディとの取り合わせが歌詞の情景を引き立てる「バーバレラ」NARASAKIがボーカルをとった味わい深いバラードアザナエルといった佳作も収録されている。

 

3.『Agitator』2001年 

Agitator [HQCD]

Agitator [HQCD]

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2015/03/04
  • メディア: CD
 

 

 初期特撮を代表する1枚といえばこれ。頭脳警察の歌詞を引用した「ヨギナクサレ」、休みの国の反戦フォークをカバーした「悪魔巣取金愚」など、楽曲が含み持つ様々な文脈によってアルバムタイトル”アジテーター”の意味が多層的に補完されている。こうした意味の豊かさは、収録楽曲の多様性とも通じている。序盤の「超越人間オーケボーマン」はメタル的な様式美を持ったパンクで、ヒーローものを題材にした馬鹿馬鹿しくも熱いストーリーが展開される。一方バラード曲「揉み毬」オーケンとしては久々にストーリーテリングを重視し、人生の不条理を優しい視点で歌うこちらも良曲。このようにメロディやサウンドの多様性がそのまま歌詞にも反映されており、NARASAKIら作曲陣と作詞オーケンのチームワークはこのアルバムで完成をみていると言ってもよいだろう。「人間以外の俺になれ」「ゴスロリちゃん綱渡りから落下す」に至っては1曲の中でさえ多様性のあるトリッキーな構成を見せ、オーケンの詞も、その曲名同様一筋縄でいかないドラマチックで複雑怪奇なものになっている。コンセプト、楽曲の種類、そして1曲の中での編成まで、あらゆるレベルで多層構造を見せてくれる、バラエティに富んだとても楽しいアルバムである。

 

4.『オムライザー』2003年 

オムライザー (HQCD)

オムライザー (HQCD)

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: CD
 

 

 全8曲中NARASAKIの作曲は3曲(「オム・ライズ」「ルーズ・ザ・ウェイ」「友よ」)に留まり、その他の作曲陣は大槻が1曲、ARIMATSU(Dr.)が1曲、三柴理(Pf.)が1曲、サポートベーシストの高橋竜が2曲となっているミニアルバム。このように作曲陣のバランス調整によって多彩さを生み出そうとしているように見受けられるが、やはりNARASAKIの3曲が突出して印象的であり、彼の特撮におけるポジションの重要さを結果的に際立たせている。「オム・ライズ」は引きこもりの少年と架空の地底探査メカというモチーフの取り合わせの妙もさることながら、何よりサビ前の人名列挙が格好良く楽しい。「ルーズ・ザ・ウェイ」は作詞クレジットが珍しく大槻とNARASAKIの共作となっており、”寒いふりをしてる 本当はヌクヌクの体”という歌い出しから”いい方へころがれ”と繰り返すラストまで、とにかく全行が魅力的な歌詞である。

 

5.『夏盤』2004年 

夏盤 (HQCD)

夏盤 (HQCD)

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: CD
 

 

 前作に引き続きミニアルバムということもあり、バンドとしての失速感は否めない。しかし曲の質としては粒ぞろいであり、特撮特有の無味乾燥とした抒情性が光る「花火」、逆に感傷的な表現で強烈な物語世界を印象付ける「湘南チェーンソー」といった曲は、オーケンのレパートリーの中でも地味ながら唯一無二の魅力を持つ傑作。 「アングラ・ピープル・サマー・ホリデイ」で”チューブが流れるこの海を 僕らがこの手で奪い取れ!”と歌われるあまりに無邪気なサブカル的自意識は、今となってはかえって牧歌的に響く。小説『ロッキン・ホース・バレリーナ』とリンクするロードムービーは、「アングラ・…」と同じくサザンやチューブといった固有名詞を用いながらも、攻撃的な意識はなくストレートなサマー・アンセムとして楽しめるのが対称的。

 

6.『綿いっぱいの愛を!』2005年 

綿いっぱいの愛を! (HQCD)

綿いっぱいの愛を! (HQCD)

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: CD
 

 

 オリジナルアルバムとしては活動休止前最後のアルバムであり、曲数も10曲とフルサイズになっているが、やはりこれも初期3枚と比べると傑作とは言い難い。とはいえ表題曲「綿いっぱいの愛を!」の炸裂するポップセンスは特撮の代表曲と言っても差し支えない完成度である。その他、演奏の移り変わりによるテンションの上昇が楽しい「僕らのロマン飛行」、焦燥をリズミカルに表現した「回転人生テクレ君」オーケンにしてはかなりストレートな社会風刺がみられる「デス市長伝説(当選編!)」などが佳作として挙げられる。ポップな曲調やコミカルさなど取っつきやすさが前面に出た曲が多く、それゆえ良くも悪くも特撮としては大人しい味付けに収まった1枚である。

 

7.『5年後の世界』2011年 

5年後の世界

5年後の世界

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2011/06/29
  • メディア: CD
 

 

 筋肉少女帯の再始動に伴う活動休止状態を経て、特撮名義としての活動は2006年のベストアルバム『ロコ!思うままに』以来5年ぶりとなるアルバム。全13曲中、アニメ『さよなら絶望先生』及び同原作者のOVAかってに改蔵』のテーマソングが5曲、その他の既発曲のセルフカバーが4曲、新曲が4曲という、半ば企画盤のような変則的なアルバムとなっている。何と言っても目玉はオーケンと特撮にとって大きな転機となったアニメ『絶望先生』の歴代オープニングテーマ林檎もぎれビーム!」「人として軸がぶれている」「空想ルンバの3曲。これらは今もなおアニメファンを中心に絶大な支持を得ているが、”絶望”というアニメのキーワードから大きく発想を飛ばしたことで普遍的な影響力を持った、オーケンのキャリアの中でも名実ともに最も優れた曲たちであると言って差し支えない。以上の3曲が配置されているのはアルバム前半部だが、後半には『改蔵』のOPテーマ「かってに改造してもいいぜ(オーケンVo.ver)」、『絶望先生Blu-ray BOX発売記念の新曲メビウス荒野~絶望伝説エピソード1~」が置かれていることからも、『絶望先生』に始まる一連のプロジェクト楽曲が(圧倒的な完成度をもって)このアルバムの重要な位置を占めていることがわかる。さらに特筆すべきは、これらのいわゆる”アニソン仕事”の曲群と、セルフカバー・新曲含めた純然たる”特撮”の曲群とが、何の違和感もなく等価に存在していることである。再始動したバンドの心象と東日本大震災後の社会が重ね合わされる「5年後の世界」「霧が晴れた日」は今も(今こそ?)色褪せずに響く名曲であるし、アルバム最大の盛り上がりである「ロコ!思うままに(011)」、ラストに見事としか言いようがない爽快さを残す「ルーズ ザ ウェイ(011)」はいずれも原曲より数段エモーショナルにアレンジされ、明らかなアップデートとなっている。前述の通り変則的な形態であるためオリジナルアルバムとしては数に入れない場合もあるが、タイアップ曲・セルフカバー曲・新曲のいずれも隙がない魅力を放っており、特撮の中でも至高の1枚として挙げられる。

 

8.『パナギアの恩恵』2012年 

パナギアの恩恵

パナギアの恩恵

  • アーティスト:特撮
  • 発売日: 2012/12/12
  • メディア: CD
 

 

 ”怒りは小さな薔薇園だ”というパンチラインで始まる1曲目「薔薇園 オブ ザ デッド」で特撮全盛期の再来を高らかに実感させてくれる、久々の完全新作アルバム。個性的かつ完成度の高い楽曲が揃っているが、ラスト2曲「じゃあな」「ミルクと毛布」が突出した名曲である。「じゃあな」はこれまでも再三引用してきた中原中也のフレーズが多く使われているが、そのように”引用すること”自体に対する照れくささこそがこの曲の主題として描かれており、これまでの引用とは一線を画した人間味と愛情溢れる楽曲になっている。「ミルクと毛布」筋少・特撮・その他含めて現状最後の「作曲:大槻ケンヂ」クレジットとなっている楽曲。これまで自虐のモチーフとして扱ってきた”赤ちゃん”(「踊る赤ちゃん人間」「子供じゃないんだ赤ちゃんなんだ」等)という言葉を、初めてストレートに慈愛の対象として描いているのが印象的。この曲の成立についてはエッセイ『いつか春の日のどっかの町で』に詳しい。その他、ゲストボーカルに声優の後藤沙緒里を迎えた「鬼墓村の手毬歌(Short Edit Ver.)」を始めとして物語性の高い楽曲が多いこともあり、全編通してロック・オペラ的な壮大さを感じさせる。多様な物語が次々と展開される、オーケン至上最も”密度の濃い”アルバムかもしれない。

 

9.『ウインカー』2016年

ウインカー(通常盤)

ウインカー(通常盤)

  • 発売日: 2016/02/03
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 大槻の筋肉少女帯をはじめ各メンバーそれぞれの活動との兼ね合いで不定期的な活動となった特撮だが、本作のクオリティーをもってその魅力の健在ぶりを十分に示してくれる。中でも先行シングル「シネマタイズ(映画化)」は特撮の中でベスト1としても良いほど名曲中の名曲。かつて”人を救うはずなのに 自分さえ 救えやしない俺のさ 歌だよ”(筋肉少女帯「僕の歌を総て君にやる」より)と歌ったオーケンだが、映画好きの彼らしい人生観が詰まったこの曲は文字通り”人を救う”歌と言っていいのではないだろうか。アニメ『監獄学園』に提供した主題歌のセルフカバー「愛のプリズン(特撮ver.)」もまた、コミカルでポップな曲の中にストレートな格好良さや人生の深淵をも内包した、オーケンの真骨頂とでも言うべき曲。以上2曲があることでパワフルなラウドロックアルバムとなってもおかしくなかったが、それらに負けず劣らず印象的な「荒井田メルの上昇」「富津へ」というバラード2曲の力強い存在感が、このアルバムをグッと大人びたものにしている。「アリス」「人間蒸発」などはともすればつかみ所のない曲だが、バンドの明らかな成熟により不思議な説得力をたたえる。全体として妖しげながらも安定感のある、特撮の到達点とでも言うべきアルバムとなっている。

 

10.『エレクトリック ジェリーフィッシュ

 

 本格的なパンデミック前夜ごろに予感めいた歌詞が書かれたオーバー・ザ・レインボー~僕らは日常を取り戻す」、感染拡大が本格化した中”密””自粛”などハッキリと世相の言葉を盛り込んだ「I wanna be your Museの2曲が、2020~21年の世相を特に色濃く反映している。しかし、その2曲も含めて本作の収録曲に通底しているのは、現実を冷静に捉えつつも希望に目をむけるスタンスである。胸のすくように爽快なリード曲「ヘイ!バディー」、ひたむきさや挑戦に対して真っ正面からエールを送る「フィギュア化したいぜ」などは、オーケンのパーソナルな魅力が最大限発揮された良曲である。そして「ミステリーナイト」「歌劇「空飛ぶゾルバ」より「夢」」といった、完全に悪ふざけとしか思えない曲を未だに発表しているのもまた嬉しいことこの上ない。特撮というバンドが持つ多面的な魅力を改めて気づかせてくれる1枚である。

大槻ケンヂ全オリジナルアルバム・レビュー① 筋肉少女帯 前編

はじめに

僕が最も敬愛するミュージシャン・大槻ケンヂ(以下オーケンとも)氏は、「筋肉少女帯」「特撮」「電車」といったバンドや、様々な名義のソロ活動などで、多くの名曲を世に送り出しています。またそのディスコグラフィは、ライブ盤や編集盤を除いたオリジナル・アルバムに絞っても現時点で40枚近くあり、これからも活動が続く限り増え続けていくと思われます。

個人的な話ですが、僕が高校生で初めて氏の表現に触れ感動を覚えたとき、オーケンはすでに筋肉少女帯17枚目のアルバムをリリースし、メジャーデビュー26周年を迎えていました。すなわち僕は自分が生まれる前のアルバム(もちろん書籍や映像作品も)を少しずつ集めながら、彼の表現の面白さや凄さ、そしてその変遷の歴史を自分なりに味わっていくこととなりました。

その後も僕は多くのアーティストやコンテンツを好きになりましたが、彼ほど味わい深く、また僕自身の感性や価値観の重要な部分になっていると言えるようなアーティストは他にいません。ふと、一体自分はなぜここまで彼の表現に魅了されているのか改めて向き合ってみたくなりました。

そこで、僕が何度も聴いている彼の膨大な作品群を、簡単にレビューしてみようと思いました。あくまで自己満足のために文章を書いているため、とりたてて面白い情報を盛り込んだ紹介文になっている訳ではありませんが、初めて聴く人のガイドとなるような解説文にもなっていると思います。各アルバム中で名前を出している曲(太字)がそのアルバムのオススメ楽曲です。

 

f:id:agriy:20210123212837j:plain

今回は、彼の活動の中心と言えるバンド「筋肉少女帯」の、メジャーデビューから活動”凍結”までの12枚をまとめました。

 

1.『仏陀L』1988年

仏陀L(紙ジャケット仕様)

仏陀L(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/07/22
  • メディア: CD
 

 

”狂えばカリスマか!? 吠えれば天才か!?”という一発目のフレーズは、珍奇なことをすれば何でももてはやされた当時のバンドシーンに対する痛烈な批評であり、なおかつ筋肉少女帯自身のスタイルを皮肉った身も蓋もない自己批判とも取れる。そしてこの衝撃的なオープニングが「モーレツア太郎」というフザケた曲名であることで、その凄味はデビュー作の1曲目にして既に存分に発揮されているといえよう。全9曲の中に「釈迦」「サンフランシスコ」「孤島の鬼」といったバンドの代表作や、再結成後にリメイクされる「福耳の子供」「ノーマン・ベイツ」なども含まれており、必聴の1枚。

 

2.『SISTER STRAWBERRY』1988年

SISTER STRAWBERRY(紙ジャケット仕様)

SISTER STRAWBERRY(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/07/22
  • メディア: CD
 

 

旧メンバー2名脱退、ドラム太田明加入、サポートギターに横関敦参加、そしてピアノ三柴江戸蔵脱退前最後の作品であるという、非常に不安定なバンド状況で出されたミニアルバム。マタンゴ」「キノコパワー」という有無を言わさぬ出だしの2曲はもちろん名曲だが、ポエトリースタイルの幽霊譚「夜歩く」、ギャグに振り切ったことで狂気に満ちた「日本の米」、初期特有の露悪的な歌詞が炸裂した危険な「ララミー」、そして9分超の圧巻の大曲「いくじなし」まで、ノンストップで強烈な世界観を突きつけられる全6曲。全編に渡ってピアノvsギターの壮絶な技巧派バトルが繰り広げられている。

 

3.『猫のテブクロ』1989年

猫のテブクロ

猫のテブクロ

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/08/19
  • メディア: CD
 
 

 

大槻ケンヂ(Vo.)、内田雄一郎(Ba.)、橘高文彦(Gt.)、本城聡章(Gt.)、太田明(Dr.)の5人体制となり、90年代の筋肉少女帯の屋台骨がようやく完成をみた本作。なんと言っても「日本印度化計画」が収録されているのがこの作品最大のトピックであるが、コミックバンドと見られるのをさけるためこの曲のシングルカットを拒んでいるあたり、筋少の微妙なスタンスが窺える。そうした感性はギャグと紙一重の悲劇「これでいいのだ」「最期の遠足」にも表われており、表面的なコミカルさに油断していると冷酷さや不条理姓の中に突き落とされてしまう恐ろしさがある。

 

4.『サーカス団パノラマ島へ帰る』1990年 

サーカス団パノラマ島へ帰る

サーカス団パノラマ島へ帰る

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/08/19
  • メディア: CD
 

 

絵本のようなジャケットアートワークが印象的なアルバム。サーカスというより見世物小屋的なコンセプトを持った本作だが、つまりは異形性や欠損をかかえた人々の物語であることが通底している。憎しみに囚われ異端として世界から隔絶される「詩人オウムの世界」、身体的欠損とリンクした孤独を描き何とも言えない不安な余韻を残す「アメリカン・ショートヘアーの少年」「23の瞳」、虚無感と絶望感に溢れた「パノラマ島へ帰る」など徹底してダークなムードが漂うが、そのシリアスさをさらに虚無へと帰すような「元祖 高木ブー伝説」で幕を閉じ、聴く者はあっけにとられる。

 

5.『月光蟲』1990年 

月光蟲

月光蟲

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/08/19
  • メディア: CD
 

 

これまでのアルバムに必ずあったインディーズ時代のリメイク曲が無くなり、完全な新曲のみで構成された1枚。繰り返される”月の裏のクレーター”のモチーフを通して、陰謀論「風車男ルリヲ」)や新興宗教「僕の宗教へようこそ(Welcome to my religion)」)といったこの世の裏側を暴こうとするものの胡散臭さ、滑稽さを逆に暴いてみせる。「少女の王国」「イワンのばか」はどちらも橘高文彦作曲の名曲。前作に引き続いてダークなトーンだがどことなくゴージャスさもあり、中でも「サボテンとバントライン」はストレートに胸を打つ1曲。

 

6.『断罪!断罪!また断罪!!』1991年  

断罪!断罪!また断罪!!

断罪!断罪!また断罪!!

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/09/16
  • メディア: CD
 

 

"子供騙しのお唄を唄って そこそこ人気もある僕だけれど"に始まり”この世を燃やしたって 一番ダメな自分は残るぜ””それでも生きていかざるをえない!”など全行パンチラインな名曲「踊るダメ人間」が収録された6曲入りミニアルバム。”ダメ人間”という語彙を世間に定着させた同曲を筆頭に、世の中にはびこる愚かさをストレートに拒絶するパブロフの犬オーケン自身の道化師的な立ち位置を自虐した「代わりの男」など、いわゆる”サブカル”的な自意識とスタンスを表明した曲が並び、前作までより彼の内面がむきだしになった重要作である。LSDをモチーフにしたと思われる大曲「何処へでも行ける切手」綾波レイの元ネタとして有名。

 

7.『エリーゼのために』1992年  

エリーゼのために

エリーゼのために

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/09/16
  • メディア: CD
 

 

プロデューサーに佐久間正英を迎え、次作ともども独特の音像を持つ作品。”のほほん”を体現した「じーさんはいい塩梅」、ストレートなメッセージ性をたたえた名曲「生きてあげようかな」など、これまでになく聴く者にポジティブなメッセージを与えようとする明確な意思が見られる。中でも「戦え!何を!?人生を!」は反則スレスレの圧倒的な涙腺刺激曲。しかし一筋縄で感動路線に行くはずもなく、「スラッシュ禅問答」「妄想の男」のようなトラウマ必至曲も収録。本作から本城聡章が作曲に本格参加し、ポップかつファンキーなセンスで筋少の新機軸を支えている。

 

8.『UFOと恋人』1993年  

UFOと恋人

UFOと恋人

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2009/09/16
  • メディア: CD
 

 

世間の欺瞞とそれを風刺する自身の卑怯さを同時に暴く「暴いておやりよドルバッキー」、コミカルだが痛々しく切ない熱血ラブソング「君よ! 俺で変われ!」など先行シングル3曲はどれもCMタイアップ曲。さらにそれらのタイアップ自体を痛烈に皮肉った「タイアップ」という曲が終盤に用意されていることからもわかる通り、多層的な諧謔精神に溢れた怪作。「高円寺心中」「俺の罪」では歌謡曲的なアプローチでやるせなさを体現するなど、ハードロックバンドとしてのアイデンティティを逆手にとるような屈折も見られ、迷走というよりこの混沌こそが筋少の本質であるといえよう。そんな中「きらめき」オーケンの人生観と優しさがにじみ出たラブソングであり、隠れた名曲。

 

9.『レティクル座妄想』1994年

レティクル座妄想+6

レティクル座妄想+6

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: CD
 

 

筋肉少女帯全キャリアの中でも屈指の名盤として名高いコンセプトアルバム。1曲目レティクル座行超特急」で、”この世で愛されなかった人達だけがレティクル座行きの列車に乗れるの”と示されるとおり、現実逃避と妄想の行く末としてのレティクル座≒死のイメージが全編に描かれる。教室で孤立する少年の逆ギレ的大衆蔑視蜘蛛の糸、死を恐れながらも死に取り憑かれてしまう絶望ハッピーアイスクリーム筋少自身のファンにも通じるカリスマ信仰の身も蓋もない現実を突く「ノゾミのなくならない世界」など、現実世界の救いようの無さ、それと鏡像関係にある妄想の狂気がこれでもかと突きつけられる。そして現実逃避すらも完膚なきまでに否定してしまう「飼い犬が手を噛むので」をラストに持ってくるダメ押し感も含めて、心の闇の部分に深く突き刺さるであろう1枚。シンプルなラブソングとして聞き流されかねない「香菜、頭をよくしてあげよう」は、このアルバムに入ることによって痛々しいまでの奥深さを帯びている。

 

10.『ステーシーの美術』1996年

ステーシーの美術+6

ステーシーの美術+6

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: CD
 

 

同時期に発表された小説『ステーシー』の物語とリンクする「再殺部隊」「リテイク」及びその反転となっているトゥルー・ロマンスのいわゆる”ゾンビ3部作”は、強烈な世界観のインパクトとともに単体のストーリーとして巨大な感動を起こさせる。しかしそれ以上に印象的とも言えるのが、精神に不調を来していたオーケンの内面の吐露である。「おもちゃやめぐり」「星座の名前は言えるかい」でこれまでになく自身の繊細さを正直に晒す一方、”俺たちはまだ 明るさに包まれた日をみつけていないよなー だったら走るしかないだろう? 誰の足だよ? てめぇの足だろ?”と切実に語る「銀輪部隊」や、『ドラゴン怒りの鉄拳』主題歌をカバーした「FIST OF FURY」「FIST OF FURY ~再生~」はやけくそ気味に己を鼓舞する姿が泣ける。

 

11.『キラキラと輝くもの』1996年

キラキラと輝くもの+6

キラキラと輝くもの+6

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: CD
 

 

ロックと私小説の融合をテーマに、オーケンの内面を最もさらけ出した1枚。特に前半5曲ではハードな曲が続く。これまである種相対化して描いてきた”狂気”を純真で切実なものとして描いた「機械」、”人を救うはずなのに自分さえ救えやしない”と自嘲しながらも”大好きだよ君が 照れ臭くも無いよ”と心から歌う「僕の歌を総て君にやる」など曲ごとにそのむき出しっぷりは増していき、それが頂点に達する9分半の大作「サーチライト」は圧巻というほかない、究極の1曲である。そこから急転直下するかのように、後半5曲は「そして人生は続く」など明るく牧歌的な曲が続くが、ひたすらポジティブなそれらの曲はむしろ開き直り的な迫力を持っており、この後半5曲にこそ筋肉少女帯の底知れない凄味が詰まっていると言える。ラストの「冬の風鈴」はしみじみした余韻を残すと共に、この境地まで来たんだなあ、と思いを巡らしてしまう。

 

12.『最後の聖戦』1997年 

最後の聖戦+8

最後の聖戦+8

  • アーティスト:筋肉少女帯
  • 発売日: 2018/06/20
  • メディア: CD
 

 

活動凍結前最後のオリジナルアルバム。筋少が再始動を果たした現在の視点から見ても、太田明を含む5人体制としては最後の作品であり、何より彼等が”終わり”を意識して作った作品であることは疑いようもない内容となっているため、明確な終止符と言える1枚である。先行シングル「221B戦記」「タチムカウ -狂い咲く人間の証明-」はともに死地となる戦場を前に悲壮な覚悟を決める内容であり、「カーネーション・リインカーネーション「タチムカウ」もシングル曲の流れをくむシリアスで重々しい力作である。しかしそれ以外の曲は「哀愁のこたつみかん」など脱力しきった曲や「青ヒゲの兄弟の店」など大槻ケンヂ以外(どころかメンバー以外)の作詞となっている曲も多いため、アルバム全体として筋肉少女帯の集大成とは言い難い内容になっているものの、こうしたバランスが末期特有の危うさを見せてくれる。そんな中最後に収められた「ペテン」で露悪的・自虐的に自身の活動を総括して見せたオーケンを前に、リスナーは煙に巻かれながら、その唯一無二のオチの付け方に圧倒されるほかないのである。

買ったやつまとめ2020前半

2020年上半期に買ったCDのまとめ。

1月1日発売 『TOKYOPOP』/アーバンギャルド 

 

TOKYOPOP

TOKYOPOP

 

 

トラウマテクノポップバンド・アーバンギャルドが元日に発表したアルバム。新曲6曲・セルフカバー6曲、外部リミックス2曲の変則的な構成。

前年にGt.瀬々信が脱退したことによりメンバーがボーカル2名キーボーディスト1名となり、メタル要素を含んだポップロックから打ち込み主体のテクノポップバンドへ移行せざるを得なかったという経緯がある。個人的には、親しんだメンバーがいなくなるのは残念だがミニマムな編成になったことで新しい音楽性に期待していた。

結果は期待通りの素晴らしい出来で、過去の音源をときにスタイリッシュに、ときにウェットにアップデートしていて聴き応えがあった。こんな完成度の高い作品を出してこれから先どうすんだろうと不安さえ感じた。

とくにM4「水玉病」はVo.浜崎容子(よこたん)の変化が味わい深い。デビューアルバム『少女は二度死ぬ』での今にも壊れそうな弱々しさから、包容力を感じさせる優しい弱さへの変容が感慨深かった。

それだけにもう一人のボーカルにして作詞家である松永天馬の変わらなさも引き立っており、そこもまた魅力だ。初期のアーバンギャルドで”病的”なアイコンといえばよこたんだったが、今はむしろ天馬の方が”病的”に感じる。人形が自我を手に入れるように強い意思を見せてくれるようになったよこたんと、未だに引用や言葉にとりつかれた歌詞を書く天馬のアンビバレンツさが、これからのこのバンドの魅力となっていくだろうし、不安要素でもあると思う。

全国ツアーは残念ながら途中で自粛せざるをえなかったそうだが、福岡公演はギリギリで観ることができた。完成度の高いアルバムとは裏腹に手探り感たっぷりの新編成ライブで、結成10年以上になるとは思えないルーキーっぷりを楽しむことができた。このごちゃごちゃ感も皮肉ではなく本当に楽しかったが、もっと完成された状態で、もっと大きな会場でのライブが観たい、つまり売れてほしい、とも思った。

 

 

1月8日発売 『児童カルテ』/神聖かまってちゃん 

 

児童カルテ

児童カルテ

 

 

神聖かまってちゃん10枚目のアルバム。agriy.hatenablog.com

 

ここに詳しく書いた。その後新サポートベースが20歳くらいの青年に決まったのはビックリした。そんな”主人公”みたいなストーリーあるかよ・・・

 

 

3月4日発売 『笑顔』/ティンカーベル初野

 

笑顔

笑顔

 

 

 2016年YouTube上に名曲「システムがわからないジジィとババァ」を放ったソロミュージシャン・ティンカーベル初野がようやくCDデビュー。

寡作とはいえ、この4年間ひたすらジジィとババァをテーマにした歌「だけ」を作り続けた芸風の徹底ぶりは、畏敬の念すら感じさせる。Twitterの運用なども含めてそのアーティスト活動には意味の分る物が一つも無いが、続けること自体が一つの巨大なギャグとなっているし、一つ一つの笑いも下らなさすぎて分析の余地を与えないところがいい。

ボーナストラックとして全曲のオフボーカル音源も入っており、ふざけきった歌詞とは対照的にトラックメイカーとしての真摯さがわかる。


ティンカーベル初野 - 1stミニアルバム『笑顔』嘘トラックリスト

この普通にカッコいいトラックとかどういうモチベーションで作ったんだ。

 

3月4日発売 『ブラクラ』/挫・人間

 

ブラクラ※初回限定盤(CD+DVD)

ブラクラ※初回限定盤(CD+DVD)

  • アーティスト:挫・人間
  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: CD
 

 

 最後のナゴムの遺伝子、挫・人間5枚目(ミニアルバム入れると6枚目)のアルバム。平日のタワレコティンカーベル初野と挫・人間を買いに走る人生もある。

前作までの凄腕サポートドラマー・菅大智がバンドを離れてしまい心配していたが、ドラマーが定まらないことには慣れっこのようで、特に不在感を大きく感じさせるようなことはなかった。


挫・人間「ソモサンセッパ」

とにかくリード・トラックの「ソモサン・セッパ」が物凄い。「なんで笑ってるんだ?笑顔に自信があるのか?!」という酷すぎる歌詞に共感してしまう自分が嫌だ。地獄としかいいようのない対話形式の歌詞は、滑稽さと情けなさのステータスがMAXになった大槻ケンヂのよう。この曲はアベマコトのベースラインを始めとして音楽的な聴き所もちゃんとたくさんあり、最後の大オチ「たとえば音楽」で説得力のある感動が訪れるのが良い。

フロントマン・下川リヲのイメージが強いバンドだが、今作ではGt.夏目創太の作詞曲が3つあり、ワンマンバンドにはならない懐の深さを感じる。M5「童貞トキメキ☆パラダイス」ではメインボーカルも夏目くんになっていて、ストレートなロック兄ちゃんという感じの声が下川くんの愛嬌のある声と丁度いいバランスで、聴いていて楽しい。

M3「一生のお願い」やM9「マジメと云う」は、人生の折に触れて思い出したくなるような名曲。M6「マカロニを探せ!」は渋谷系っぽい曲調でオシャレさととぼけた味わいがあり、地味だけど個人的にはかなり好きな曲だ。

「マカロニを探せ!」の歌詞のモデルになったらしいベースのアベさんは今年で脱退してしまうらしい。そういうこともあるよね、と思う。

 

4月1日発売 『操』/岡村靖幸

 

操

  • アーティスト:岡村靖幸
  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: CD
 

 岡村ちゃんの8枚目。このアルバム発売前後でTVや雑誌への露出が多くなってて、2019年3月ごろの電気グルーヴを思い出してちょっと心配になった(失礼)。

ギターで小山田圭吾が参加しているM1「成功と挫折」、アルバム随一の中毒性を持つM2「操」、言わずと知れたヒットシングルM3「ステップアップLOVE」と序盤からキラーチューンの続く威勢の良いアルバム。特にM2からM3への繋ぎは陳腐な言い方だけど鳥肌もの。「ステップアップLOVE」は正直あまり聴いていなかった曲だが、このアルバムには入ることで純粋な少女性が浮き立って、かなり好きな曲になった。

一番好きな曲はこれも先行シングルの「少年サタデー」。岡村ちゃんが僕のために書いてくれた歌詞だと言いたいくらい気に入ってる。岡村ちゃんのアルバムには必ず1曲は底抜けに明るいシングル曲が入っていて、それが使命感というか矜持のようなものを感じさせる。新曲だとラストの「赤裸々なほどやましく」が好き。

 

4月8日発売 『シン・スチャダラ大作戦』/スチャダラパー

 

シン・スチャダラ大作戦 D盤

シン・スチャダラ大作戦 D盤

 

 1990年からずっと同じメンバーで続いているラップユニット・スチャダラパーの14枚目&30周年アルバム。シン・ゴジラのクレジットにANIが出てきたのはビックリした。(ヤシオリ作戦で「では、分かれー!」って言ってる隊長の役らしい)

近年のアルバムは客演者の色が濃すぎてちょっと不満だったが、今回はそれも抑え気味で、ちゃんと1アーティストのアルバムとしてサラッと聴ける良さがある。

白眉はやはり”スチャダラパーからのライムスター”によるM12「Forever Young」。ライムスターは上の岡村靖幸のアルバムでもコラボで良い仕事をしていて、ちょっと注目してみたいと思った。


スチャダラパーからのライムスター - Forever Young (Music Video Version)

MVがとても良い。お巡りさんに怒られながら「生まれは’69年 山羊座のA~」の部分を歌うシーンがとくに好き。

アニバーサリー要素としては、名曲「サマージャム’95」を元にした「サマージャム2020」の収録や、特典CDとして過去の代表曲を和風・オルゴール風・ボサノバ風にアレンジしたインスト盤(自分はオルゴール盤を買った)がある。いずれもただのノスタルジーではない、諧謔味のある企画で彼ららしかった。

普通の作品としても、M1「シン・スチャダラパーのテーマ」の風刺としての力強さを持った言葉遊び(押韻)や、M13「帰ろうChant」での時勢を織り込んだ優しさのあるリリックなど、ハッとさせるものが多い。時代を常に鋭く見つめ、自分たちと時代との距離感を丁寧に探ってきた彼らならではの表現は、リアルタイムで味わうことでかけがえのない刺激を感じられるのだ。

 

4月15日発売 『ID10+』/志磨遼平

 

ID10+

ID10+

  • アーティスト:志磨遼平
  • 発売日: 2020/04/15
  • メディア: CD
 

 ドレスコーズの志磨遼平が個人名義で出したベストアルバム。2011年に解散した毛皮のマリーズ、2012年から2014年にかけてオリジナルメンバーで活動したバンド・ドレスコーズ、実質ソロ活動となった現体制のドレスコーズと、志磨の活動は大きく分けて3つの時期があるが、マリーズがメジャーデビューした2010年を起点に全ての時期から選曲されたオールタイムベストである。てっきりドレスコーズ名義をずっと曲げないものだと思っていたので、毛皮のマリーズ時代も含めた志磨遼平名義の作品発表は予想外だった。

ほぼ年代順にシングル曲やリード曲をまとめた「RIOT」盤と、コンセプトベスト・裏ベスト的に志磨お気に入りの静かな曲を集めた「QUIET」盤の2枚構成となっている。

RIOT盤は1曲目の2020年最新曲「ピーター・アイヴァース」が、2010年初出のM2「ボニーとクライドは今夜も夢中」に違和感なくつながるのが面白い。「ピーター・アイヴァース」は映画『音楽』(いろんな意味で本当にいい映画だった)の書き下ろし主題歌。バンドを始めたばかりの若者をイメージしたシンプルな曲で、志磨の持つ退廃性と生命力の両面が、映画のもつ気怠さとそこはかとない熱気にちょうどマッチしていた。そこから「ボニーとクライド」で実際に若者”だった”志磨の歌声が流れることで、虚構の中に現実の歴史が溶け込んでしまうような、一筋縄ではいかない幕開けである。

QUIET盤は選曲と曲順の妙を楽しむことができる編集盤。M5「towaie」やM12「ハーベスト」は、元アルバムの他の曲が派手だったこともありあまり印象に残っていなかったが、集中して聴くことで強烈な意味と抒情性を感じる事ができた。M11「メロウゴールド」なんてタイアップ付きのシングルになってもいいくらいのポップな名曲だと思う。

M7「恋愛重症」は奇妙礼太郎への提供曲のセルフカバー。ギターパンダもカバーしたことがあり、今回の志磨歌唱版で3バージョン目だが、どれも違った味があってとても好きだ。あざといくらいに可愛らしい歌詞と優しいメロディは志磨遼平の本領発揮。

 

5月27日発売 『TVアニメ「かくしごと」イメージアルバム feat.君は天然色』/V.A.

 

TVアニメ「かくしごと」イメージアルバム feat.君は天然色

TVアニメ「かくしごと」イメージアルバム feat.君は天然色

  • アーティスト:V.A.
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: CD
 

 久米田康治の4作目となるアニメ化作品『かくしごと』。そのEDテーマになった大滝詠一君は天然色」と、アニメの声優陣が歌った「君は天然色~めぐろ川たんていじむしょver.~」君は天然色~千田奈留ver.~」などを収録した、全編「君は天然色」のみの企画盤。

まず、2020年のアニメ『かくしごと』と、アニメEDでアレンジそのままに使われている1981年の楽曲「君は天然色」のマッチ具合がすごい。「匿していたから」という歌詞に合わせてタイトル「かくしごと」の文字が映されるところでまずオッと思うが、続く「想い出はモノクローム 色を点けてくれ」のところでは、本作の物語とそれに合わせた色彩美術、さらには原作単行本のカラーとモノクロの構成まで重ね合わせることができる。そして最後にはつんのめるようなあの独特なアウトロまで流れ、名残惜しい余韻が作品の切なさを引き立てる。映像も含めて文句のつけようがない最高のエンディングだと思う。

そしてこのアルバムで改めて大滝詠一の「君は天然色」を聴くと、アニメとの関係を抜きにしても最高の楽曲であると確認できた。歌唱はもちろん、遊び心あふれるカラフルな編曲や、「過ぎ去った過去(とき)」「色を点(つ)けてくれ」といった歌詞の独特の漢字表記に至るまで、センスとこだわりをあちこちに感じて今さら感心を覚えた。正直あまりこの曲を真剣に聴いたことがなかったが、大滝や松本隆のほかの仕事も掘り下げてみたいと思った。

また、本作の目玉であろう声優さんの歌唱バージョンも、本家に匹敵するほど魅力的だった。めぐろ川たんていじむしょver.の編曲は、久米田アニメ『さよなら絶望先生』で「絶望レストラン」などのEDテーマを手がけ、『かくしごと』では劇伴を担当している橋本由香利さん。このアレンジは本家に負けじととても実験的で、たくさんの手数をつくした賑やかな曲になっていた。

いっぽう千田奈留ver.は、アイドルソングの王道を真正面に踏襲したアレンジになっていて驚いた。千田奈留はアイドルを目指している女子高生という設定なのだが、原作で彼女の将来を知っていると「開いた雑誌(ほん)を顔に乗せ」という歌詞が多重の意味に感じられた。彼女が開いているのは漫画雑誌なのか、アイドルが載っている雑誌なのか、はたまた登場人物達の運命を大きく変えてしまったある雑誌なのか・・・とそんなことまで想像してしまった。

漫画を描いた人、アニメを作る人、この主題歌を選んだ企画者、そして作詞者、作曲者、歌手、声優、編曲者といった”各仕事”が最高の形で身を結んだ、隠れもしない名作アニソンCDである。(これが言いたかった。)

 

6月17日発売 『愛がゆえゆえ・あれから(絶望少女達2020)』/大槻ケンヂとめぐろ川たんていじむしょ・大槻ケンヂと絶望少女達

 

 

 

これもアニメ『かくしごと』関連のCDだが、OPやEDで使われている曲というわけではない。『かくしごと』原作者である漫画家・久米田康治と、同原作者のアニメ『さよなら絶望先生』『かってに改蔵』でOP主題歌を担当してきたミュージシャン・大槻ケンヂ(およびバンド”特撮”)との強い縁によって生まれた、異例の番外編的シングルである。『かくしごと』の姫ちゃんとそのクラスメイトからなる”めぐろ川たんていじむしょ”が大槻ケンヂとともに「愛がゆえゆえ」を歌っている。

オーケンの提案により「絶望先生」時のユニット”大槻ケンヂと絶望少女達”も復活。可符香、千里、奈美、マ太郎、カエレのメンバーで「あれから(絶望少女達2020)」を歌っている。僕にとってはやはり大槻ケンヂが参加した「JAGATARA2020」に並ぶ復活ニュースだった。あまり関係ないが。

 

前述のように深い縁のある久米田康治大槻ケンヂだが、そもそも、この2人の歩みは重なるところが多い。両者ともデビュー30周年前後であり、スタートは順風満帆、紆余曲折を経て『絶望先生』をきっかけに二度目のセールス的ピークを迎えたことも共通している。何より、ひねくれていたりマジョリティに馴染めなかったりする”こっち側の人間”としてポジションを確立しつつ、常に自己批判的な視点も持ち、それゆえに矛盾に陥り苦悩するといった自意識・スタンスの面で通じるものが多い。『絶望先生』まで直接的な接点はなかったものの、彼らの作品を必要とする層は共通していたのだろう。

それゆえに、約10年ぶりの両者の邂逅には感慨深いものがある。『絶望先生』から数年、久米田はそれまでのアイデンティティでもあった小ネタ羅列・下ネタ・時事風刺などといった”人を選ぶ笑い”を極力抑えた、親子の愛情を軸としたハートフルでストーリー主体の漫画『かくしごと』を連載。一方大槻も、昨年出した筋肉少女帯のアルバム『LOVE』にも見てとれるように、それまでひねくれていた人にこそ刺さるある意味直球の応援ソングやラブソングが増えていた。まるで世間との”仲直り”のような芸風の変化も、両者は共通していたのだ。

久米田康治大槻ケンヂ両者のファンとして、この2人の他人事とは思えない自意識がこのような優しい形で再び混ざり合ったことは、単なる好きな人同士のコラボといった意味を超えて、僕自身の希望でもあるのだ。

 

「愛がゆえゆえ」は、タイトルの「かくしごと」を「親子愛」というテーマと結びつけて綺麗にまとめあげた歌詞が美しい。さらにユニット名の「たんていじむしょ」要素とも絡めたのか、江戸川乱歩推理小説「心理試験」を平気で入れ込むいつものサブカルセンスには恐れ入った。娘と父親の掛け合いのような歌の中で、ユニゾン部分の歌詞にある「ここで見ているから 見えるものを君は描け」という関係性は、『かくしごと』の漫画家とその娘という関係を双方向的に捉えた名フレーズ。

「あれから(絶望少女達2020)」は、タイトル通り『絶望先生』からの年月を感じさせるシビアな曲。「人として軸がぶれている」と歌った当時との自意識のギャップを正直に歌い、例によって少女達に断罪される「僕」。しかしその「丸くなった」自意識は「いろいろあったけど 生きてればGood job」と本心から歌う。混沌が渦巻くようなメロ部分と開放感(解放感)に満ちたサビを繰り返し、生への肯定を高らかに歌うラスサビの盛り上がりを経て、神聖で穏やかなメロディーで幕を閉じる怒濤の1曲。もはや自分も世界も憎まなくていいのだ、という安堵と幾ばくかの虚脱感に包まれ、改めて『さよなら絶望先生』や大槻ケンヂが支えてくれた巨大な自意識に想いを馳せる。

どちらも作品のテーマを俯瞰的にそして繊細に捉えた、優れたアニソンである。この章だけ異常なボリュームになってしまった。本当はここだけ別記事に分けてもっと徹底的に書く予定だったが無理だった。

 

 

 

以上が2020年1月~6月に僕が購入した新譜CDの全てである。まだ好きな音楽に偏りがあるため”上半期邦楽アルバムベスト○○”のようなまとめを書いても様にならないず、かといって買ったCD全てに記事を書くことも能力的に難しいので、まずはこのようなブログを書いてみた。少しずつ良いブログが書けるようになるといい。