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買ったやつまとめ2020前半

2020年上半期に買ったCDのまとめ。

1月1日発売 『TOKYOPOP』/アーバンギャルド 

 

TOKYOPOP

TOKYOPOP

 

 

トラウマテクノポップバンド・アーバンギャルドが元日に発表したアルバム。新曲6曲・セルフカバー6曲、外部リミックス2曲の変則的な構成。

前年にGt.瀬々信が脱退したことによりメンバーがボーカル2名キーボーディスト1名となり、メタル要素を含んだポップロックから打ち込み主体のテクノポップバンドへ移行せざるを得なかったという経緯がある。個人的には、親しんだメンバーがいなくなるのは残念だがミニマムな編成になったことで新しい音楽性に期待していた。

結果は期待通りの素晴らしい出来で、過去の音源をときにスタイリッシュに、ときにウェットにアップデートしていて聴き応えがあった。こんな完成度の高い作品を出してこれから先どうすんだろうと不安さえ感じた。

とくにM4「水玉病」はVo.浜崎容子(よこたん)の変化が味わい深い。デビューアルバム『少女は二度死ぬ』での今にも壊れそうな弱々しさから、包容力を感じさせる優しい弱さへの変容が感慨深かった。

それだけにもう一人のボーカルにして作詞家である松永天馬の変わらなさも引き立っており、そこもまた魅力だ。初期のアーバンギャルドで”病的”なアイコンといえばよこたんだったが、今はむしろ天馬の方が”病的”に感じる。人形が自我を手に入れるように強い意思を見せてくれるようになったよこたんと、未だに引用や言葉にとりつかれた歌詞を書く天馬のアンビバレンツさが、これからのこのバンドの魅力となっていくだろうし、不安要素でもあると思う。

全国ツアーは残念ながら途中で自粛せざるをえなかったそうだが、福岡公演はギリギリで観ることができた。完成度の高いアルバムとは裏腹に手探り感たっぷりの新編成ライブで、結成10年以上になるとは思えないルーキーっぷりを楽しむことができた。このごちゃごちゃ感も皮肉ではなく本当に楽しかったが、もっと完成された状態で、もっと大きな会場でのライブが観たい、つまり売れてほしい、とも思った。

 

 

1月8日発売 『児童カルテ』/神聖かまってちゃん 

 

児童カルテ

児童カルテ

 

 

神聖かまってちゃん10枚目のアルバム。agriy.hatenablog.com

 

ここに詳しく書いた。その後新サポートベースが20歳くらいの青年に決まったのはビックリした。そんな”主人公”みたいなストーリーあるかよ・・・

 

 

3月4日発売 『笑顔』/ティンカーベル初野

 

笑顔

笑顔

 

 

 2016年YouTube上に名曲「システムがわからないジジィとババァ」を放ったソロミュージシャン・ティンカーベル初野がようやくCDデビュー。

寡作とはいえ、この4年間ひたすらジジィとババァをテーマにした歌「だけ」を作り続けた芸風の徹底ぶりは、畏敬の念すら感じさせる。Twitterの運用なども含めてそのアーティスト活動には意味の分る物が一つも無いが、続けること自体が一つの巨大なギャグとなっているし、一つ一つの笑いも下らなさすぎて分析の余地を与えないところがいい。

ボーナストラックとして全曲のオフボーカル音源も入っており、ふざけきった歌詞とは対照的にトラックメイカーとしての真摯さがわかる。


ティンカーベル初野 - 1stミニアルバム『笑顔』嘘トラックリスト

この普通にカッコいいトラックとかどういうモチベーションで作ったんだ。

 

3月4日発売 『ブラクラ』/挫・人間

 

ブラクラ※初回限定盤(CD+DVD)

ブラクラ※初回限定盤(CD+DVD)

  • アーティスト:挫・人間
  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: CD
 

 

 最後のナゴムの遺伝子、挫・人間5枚目(ミニアルバム入れると6枚目)のアルバム。平日のタワレコティンカーベル初野と挫・人間を買いに走る人生もある。

前作までの凄腕サポートドラマー・菅大智がバンドを離れてしまい心配していたが、ドラマーが定まらないことには慣れっこのようで、特に不在感を大きく感じさせるようなことはなかった。


挫・人間「ソモサンセッパ」

とにかくリード・トラックの「ソモサン・セッパ」が物凄い。「なんで笑ってるんだ?笑顔に自信があるのか?!」という酷すぎる歌詞に共感してしまう自分が嫌だ。地獄としかいいようのない対話形式の歌詞は、滑稽さと情けなさのステータスがMAXになった大槻ケンヂのよう。この曲はアベマコトのベースラインを始めとして音楽的な聴き所もちゃんとたくさんあり、最後の大オチ「たとえば音楽」で説得力のある感動が訪れるのが良い。

フロントマン・下川リヲのイメージが強いバンドだが、今作ではGt.夏目創太の作詞曲が3つあり、ワンマンバンドにはならない懐の深さを感じる。M5「童貞トキメキ☆パラダイス」ではメインボーカルも夏目くんになっていて、ストレートなロック兄ちゃんという感じの声が下川くんの愛嬌のある声と丁度いいバランスで、聴いていて楽しい。

M3「一生のお願い」やM9「マジメと云う」は、人生の折に触れて思い出したくなるような名曲。M6「マカロニを探せ!」は渋谷系っぽい曲調でオシャレさととぼけた味わいがあり、地味だけど個人的にはかなり好きな曲だ。

「マカロニを探せ!」の歌詞のモデルになったらしいベースのアベさんは今年で脱退してしまうらしい。そういうこともあるよね、と思う。

 

4月1日発売 『操』/岡村靖幸

 

操

  • アーティスト:岡村靖幸
  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: CD
 

 岡村ちゃんの8枚目。このアルバム発売前後でTVや雑誌への露出が多くなってて、2019年3月ごろの電気グルーヴを思い出してちょっと心配になった(失礼)。

ギターで小山田圭吾が参加しているM1「成功と挫折」、アルバム随一の中毒性を持つM2「操」、言わずと知れたヒットシングルM3「ステップアップLOVE」と序盤からキラーチューンの続く威勢の良いアルバム。特にM2からM3への繋ぎは陳腐な言い方だけど鳥肌もの。「ステップアップLOVE」は正直あまり聴いていなかった曲だが、このアルバムには入ることで純粋な少女性が浮き立って、かなり好きな曲になった。

一番好きな曲はこれも先行シングルの「少年サタデー」。岡村ちゃんが僕のために書いてくれた歌詞だと言いたいくらい気に入ってる。岡村ちゃんのアルバムには必ず1曲は底抜けに明るいシングル曲が入っていて、それが使命感というか矜持のようなものを感じさせる。新曲だとラストの「赤裸々なほどやましく」が好き。

 

4月8日発売 『シン・スチャダラ大作戦』/スチャダラパー

 

シン・スチャダラ大作戦 D盤

シン・スチャダラ大作戦 D盤

 

 1990年からずっと同じメンバーで続いているラップユニット・スチャダラパーの14枚目&30周年アルバム。シン・ゴジラのクレジットにANIが出てきたのはビックリした。(ヤシオリ作戦で「では、分かれー!」って言ってる隊長の役らしい)

近年のアルバムは客演者の色が濃すぎてちょっと不満だったが、今回はそれも抑え気味で、ちゃんと1アーティストのアルバムとしてサラッと聴ける良さがある。

白眉はやはり”スチャダラパーからのライムスター”によるM12「Forever Young」。ライムスターは上の岡村靖幸のアルバムでもコラボで良い仕事をしていて、ちょっと注目してみたいと思った。


スチャダラパーからのライムスター - Forever Young (Music Video Version)

MVがとても良い。お巡りさんに怒られながら「生まれは’69年 山羊座のA~」の部分を歌うシーンがとくに好き。

アニバーサリー要素としては、名曲「サマージャム’95」を元にした「サマージャム2020」の収録や、特典CDとして過去の代表曲を和風・オルゴール風・ボサノバ風にアレンジしたインスト盤(自分はオルゴール盤を買った)がある。いずれもただのノスタルジーではない、諧謔味のある企画で彼ららしかった。

普通の作品としても、M1「シン・スチャダラパーのテーマ」の風刺としての力強さを持った言葉遊び(押韻)や、M13「帰ろうChant」での時勢を織り込んだ優しさのあるリリックなど、ハッとさせるものが多い。時代を常に鋭く見つめ、自分たちと時代との距離感を丁寧に探ってきた彼らならではの表現は、リアルタイムで味わうことでかけがえのない刺激を感じられるのだ。

 

4月15日発売 『ID10+』/志磨遼平

 

ID10+

ID10+

  • アーティスト:志磨遼平
  • 発売日: 2020/04/15
  • メディア: CD
 

 ドレスコーズの志磨遼平が個人名義で出したベストアルバム。2011年に解散した毛皮のマリーズ、2012年から2014年にかけてオリジナルメンバーで活動したバンド・ドレスコーズ、実質ソロ活動となった現体制のドレスコーズと、志磨の活動は大きく分けて3つの時期があるが、マリーズがメジャーデビューした2010年を起点に全ての時期から選曲されたオールタイムベストである。てっきりドレスコーズ名義をずっと曲げないものだと思っていたので、毛皮のマリーズ時代も含めた志磨遼平名義の作品発表は予想外だった。

ほぼ年代順にシングル曲やリード曲をまとめた「RIOT」盤と、コンセプトベスト・裏ベスト的に志磨お気に入りの静かな曲を集めた「QUIET」盤の2枚構成となっている。

RIOT盤は1曲目の2020年最新曲「ピーター・アイヴァース」が、2010年初出のM2「ボニーとクライドは今夜も夢中」に違和感なくつながるのが面白い。「ピーター・アイヴァース」は映画『音楽』(いろんな意味で本当にいい映画だった)の書き下ろし主題歌。バンドを始めたばかりの若者をイメージしたシンプルな曲で、志磨の持つ退廃性と生命力の両面が、映画のもつ気怠さとそこはかとない熱気にちょうどマッチしていた。そこから「ボニーとクライド」で実際に若者”だった”志磨の歌声が流れることで、虚構の中に現実の歴史が溶け込んでしまうような、一筋縄ではいかない幕開けである。

QUIET盤は選曲と曲順の妙を楽しむことができる編集盤。M5「towaie」やM12「ハーベスト」は、元アルバムの他の曲が派手だったこともありあまり印象に残っていなかったが、集中して聴くことで強烈な意味と抒情性を感じる事ができた。M11「メロウゴールド」なんてタイアップ付きのシングルになってもいいくらいのポップな名曲だと思う。

M7「恋愛重症」は奇妙礼太郎への提供曲のセルフカバー。ギターパンダもカバーしたことがあり、今回の志磨歌唱版で3バージョン目だが、どれも違った味があってとても好きだ。あざといくらいに可愛らしい歌詞と優しいメロディは志磨遼平の本領発揮。

 

5月27日発売 『TVアニメ「かくしごと」イメージアルバム feat.君は天然色』/V.A.

 

TVアニメ「かくしごと」イメージアルバム feat.君は天然色

TVアニメ「かくしごと」イメージアルバム feat.君は天然色

  • アーティスト:V.A.
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: CD
 

 久米田康治の4作目となるアニメ化作品『かくしごと』。そのEDテーマになった大滝詠一君は天然色」と、アニメの声優陣が歌った「君は天然色~めぐろ川たんていじむしょver.~」君は天然色~千田奈留ver.~」などを収録した、全編「君は天然色」のみの企画盤。

まず、2020年のアニメ『かくしごと』と、アニメEDでアレンジそのままに使われている1981年の楽曲「君は天然色」のマッチ具合がすごい。「匿していたから」という歌詞に合わせてタイトル「かくしごと」の文字が映されるところでまずオッと思うが、続く「想い出はモノクローム 色を点けてくれ」のところでは、本作の物語とそれに合わせた色彩美術、さらには原作単行本のカラーとモノクロの構成まで重ね合わせることができる。そして最後にはつんのめるようなあの独特なアウトロまで流れ、名残惜しい余韻が作品の切なさを引き立てる。映像も含めて文句のつけようがない最高のエンディングだと思う。

そしてこのアルバムで改めて大滝詠一の「君は天然色」を聴くと、アニメとの関係を抜きにしても最高の楽曲であると確認できた。歌唱はもちろん、遊び心あふれるカラフルな編曲や、「過ぎ去った過去(とき)」「色を点(つ)けてくれ」といった歌詞の独特の漢字表記に至るまで、センスとこだわりをあちこちに感じて今さら感心を覚えた。正直あまりこの曲を真剣に聴いたことがなかったが、大滝や松本隆のほかの仕事も掘り下げてみたいと思った。

また、本作の目玉であろう声優さんの歌唱バージョンも、本家に匹敵するほど魅力的だった。めぐろ川たんていじむしょver.の編曲は、久米田アニメ『さよなら絶望先生』で「絶望レストラン」などのEDテーマを手がけ、『かくしごと』では劇伴を担当している橋本由香利さん。このアレンジは本家に負けじととても実験的で、たくさんの手数をつくした賑やかな曲になっていた。

いっぽう千田奈留ver.は、アイドルソングの王道を真正面に踏襲したアレンジになっていて驚いた。千田奈留はアイドルを目指している女子高生という設定なのだが、原作で彼女の将来を知っていると「開いた雑誌(ほん)を顔に乗せ」という歌詞が多重の意味に感じられた。彼女が開いているのは漫画雑誌なのか、アイドルが載っている雑誌なのか、はたまた登場人物達の運命を大きく変えてしまったある雑誌なのか・・・とそんなことまで想像してしまった。

漫画を描いた人、アニメを作る人、この主題歌を選んだ企画者、そして作詞者、作曲者、歌手、声優、編曲者といった”各仕事”が最高の形で身を結んだ、隠れもしない名作アニソンCDである。(これが言いたかった。)

 

6月17日発売 『愛がゆえゆえ・あれから(絶望少女達2020)』/大槻ケンヂとめぐろ川たんていじむしょ・大槻ケンヂと絶望少女達

 

 

 

これもアニメ『かくしごと』関連のCDだが、OPやEDで使われている曲というわけではない。『かくしごと』原作者である漫画家・久米田康治と、同原作者のアニメ『さよなら絶望先生』『かってに改蔵』でOP主題歌を担当してきたミュージシャン・大槻ケンヂ(およびバンド”特撮”)との強い縁によって生まれた、異例の番外編的シングルである。『かくしごと』の姫ちゃんとそのクラスメイトからなる”めぐろ川たんていじむしょ”が大槻ケンヂとともに「愛がゆえゆえ」を歌っている。

オーケンの提案により「絶望先生」時のユニット”大槻ケンヂと絶望少女達”も復活。可符香、千里、奈美、マ太郎、カエレのメンバーで「あれから(絶望少女達2020)」を歌っている。僕にとってはやはり大槻ケンヂが参加した「JAGATARA2020」に並ぶ復活ニュースだった。あまり関係ないが。

 

前述のように深い縁のある久米田康治大槻ケンヂだが、そもそも、この2人の歩みは重なるところが多い。両者ともデビュー30周年前後であり、スタートは順風満帆、紆余曲折を経て『絶望先生』をきっかけに二度目のセールス的ピークを迎えたことも共通している。何より、ひねくれていたりマジョリティに馴染めなかったりする”こっち側の人間”としてポジションを確立しつつ、常に自己批判的な視点も持ち、それゆえに矛盾に陥り苦悩するといった自意識・スタンスの面で通じるものが多い。『絶望先生』まで直接的な接点はなかったものの、彼らの作品を必要とする層は共通していたのだろう。

それゆえに、約10年ぶりの両者の邂逅には感慨深いものがある。『絶望先生』から数年、久米田はそれまでのアイデンティティでもあった小ネタ羅列・下ネタ・時事風刺などといった”人を選ぶ笑い”を極力抑えた、親子の愛情を軸としたハートフルでストーリー主体の漫画『かくしごと』を連載。一方大槻も、昨年出した筋肉少女帯のアルバム『LOVE』にも見てとれるように、それまでひねくれていた人にこそ刺さるある意味直球の応援ソングやラブソングが増えていた。まるで世間との”仲直り”のような芸風の変化も、両者は共通していたのだ。

久米田康治大槻ケンヂ両者のファンとして、この2人の他人事とは思えない自意識がこのような優しい形で再び混ざり合ったことは、単なる好きな人同士のコラボといった意味を超えて、僕自身の希望でもあるのだ。

 

「愛がゆえゆえ」は、タイトルの「かくしごと」を「親子愛」というテーマと結びつけて綺麗にまとめあげた歌詞が美しい。さらにユニット名の「たんていじむしょ」要素とも絡めたのか、江戸川乱歩推理小説「心理試験」を平気で入れ込むいつものサブカルセンスには恐れ入った。娘と父親の掛け合いのような歌の中で、ユニゾン部分の歌詞にある「ここで見ているから 見えるものを君は描け」という関係性は、『かくしごと』の漫画家とその娘という関係を双方向的に捉えた名フレーズ。

「あれから(絶望少女達2020)」は、タイトル通り『絶望先生』からの年月を感じさせるシビアな曲。「人として軸がぶれている」と歌った当時との自意識のギャップを正直に歌い、例によって少女達に断罪される「僕」。しかしその「丸くなった」自意識は「いろいろあったけど 生きてればGood job」と本心から歌う。混沌が渦巻くようなメロ部分と開放感(解放感)に満ちたサビを繰り返し、生への肯定を高らかに歌うラスサビの盛り上がりを経て、神聖で穏やかなメロディーで幕を閉じる怒濤の1曲。もはや自分も世界も憎まなくていいのだ、という安堵と幾ばくかの虚脱感に包まれ、改めて『さよなら絶望先生』や大槻ケンヂが支えてくれた巨大な自意識に想いを馳せる。

どちらも作品のテーマを俯瞰的にそして繊細に捉えた、優れたアニソンである。この章だけ異常なボリュームになってしまった。本当はここだけ別記事に分けてもっと徹底的に書く予定だったが無理だった。

 

 

 

以上が2020年1月~6月に僕が購入した新譜CDの全てである。まだ好きな音楽に偏りがあるため”上半期邦楽アルバムベスト○○”のようなまとめを書いても様にならないず、かといって買ったCD全てに記事を書くことも能力的に難しいので、まずはこのようなブログを書いてみた。少しずつ良いブログが書けるようになるといい。